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2013年度ヤング・ポートフォリオ(YP)レセプション&ギャラリートーク

去る5月24日(土)14:00-16:00、YP公開レセプションを開催しました。約80名のお客様を迎え、盛会の内に幕を閉じました。当日は、9名のYP購入作家が参加。作品の前で作家自身がスピーチを行い、2013年度選考委員の川田喜久治氏、瀬戸正人氏、館長・細江英公による講評も行いました。ギャラリートークの内容を、講評の順番にご紹介します。

作品は、すべて当ウェブサイト内のYPデータベースにてご覧いただけます。

http://kmopa-yp.com/Opac/search.htm?s=xlHniRviA-yMGxumjv7tkpfmhzo

 

 

 

2013年度YP購入作家 伊原美代子(いはら みよこ)
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伊原美代子氏(2013年度ヤング・ポートフォリオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

伊原:《みさおとふくまる》は、千葉県の房総に住む実の祖母みさおと、その飼い猫ふくまるの日常を撮った作品です。撮り始めたきっかけは、13年ほど前、私がバイトをクビになり、無職のような状態になったことです。家にいるのが私とお婆ちゃんと猫、そういう生活の中で、毎日毎日、撮りました。でも、実はそんな日常生活を送ることがけっこう難しいということに気づき、日常を大事にして欲しいというメッセージを込めて作品にしました。

細江:この猫は、言葉がわかるような感じね。シャッターを押す瞬間というのは、撮影者の意識がはっきりしているということ。あなたは非常に明確に猫とお婆ちゃんの関係を把握して、あなたの家の全体の関係、周囲の状況を全部入れながら撮っている。すばらしいドキュメントですよ。

伊原:ありがとうございます。

細江:お婆ちゃんはお元気なの?

伊原:元気にしています。

細江:お婆ちゃんに、私の作品、入選しましたって報告したら何と言っていました?

伊原:今日もおこづかいをくれました(笑)。

細江:あなたはYPに購入されて、おこづかいももらって、良かったね(笑)。2014年度も応募したら?

伊原:今回はできなかったので、また次の年に応募させていただきたいと思います(笑)。

細江:我々が見ても、何とも言えないほのぼのとした、猫とお婆ちゃんとの関係、それからお孫さんのあなたが撮っているという感じも、とてもよく表現されていると思います。

伊原:ありがとうございました。

 

 

 

2013年度YP購入作家 Ake
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Ake氏(2013年度ヤング・ポートフォリオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

Ake:去年、こちらのヤング・ポートフォリオ展を見学しまして「あぁ、こういうのをやっているんだな、応募してみよう」と思って応募したら、通って、ありがとうございます。

細江:すごいよね。購入されるのはなかなか大変なんだよ(笑)。

Ake:すみません(笑)。

細江:購入されない人の方が多いくらいだからね。しかしあなたはすごく集中していますし、全体のバランスがとても面白い。

Ake:ありがとうございます。実は私自身、すごく怖がりなので、写真を通して怖いものがきれいに見えたらいいなとか、きれいな物の中に私が感じる怖さを写したつもりです。ぶらぶらと散歩して、パシャパシャと撮り、毎日、日常を切り取っていった感じです。

瀬戸:タイトルの「モカとマイロ」って何ですか。

Ake:10年一緒にいる愛犬で、こちらがマイロと申します。後ろに写っているのは私の主人です。何かの証明写真を撮る時に、ふざけてちょっと(犬を)持ってもらって。性格が人っぽくてマイペースで、大好きなその子たちの名前を取って《モカとマイロ》という題名にしました。

瀬戸:この写真は、今6点しかないので、ちょっとわかりにくいかもしれないのですけれど、選考の段階では確か30点あって、すごく良いなと思ったのです。写真というのは見えるものしか写らないわけですけど、日常の断片を写しておきながら、目に見えない生活感が写っているような気がする。ですので、もうちょっと、展示でも、枚数を見たいなという感じです。これ、カメラは何ですか?

Ake:カメラはi PhoneとニコンのD7000を使いました。

細江:i Phoneとニコンの一眼レフで、ひとつの物語ができるという、これはまさに今日的だね。

 

 

 

2013年度YP購入作家 廣田千祐貴 (ひろた ちゆき)
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廣田千祐貴氏(2013年度ヤング・ポートフォリオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

廣田:今回初めてヤング・ポートフォリオで買っていただいて、とても嬉しく思っています。私は幼い頃、よく倒れたりすることがありました。それで肉体と精神をすごく別々に感じることがあって、肉体にとても興味があるので、そのことについて、何だろう、と考えて作った作品です。

川田:これを審査で拝見した時に、僕は第一印象が猛烈に恐ろしくて、気持ちの悪い写真を撮る人がいるんだなぁ、もしかしたら男性かなと思ったのですよ(笑)。今日、初めて女性だということがわかりまして、それは何ら不思議ではないのですね。というのは、肉体と精神が何かバラバラであるようなことを言っていますが、それは皆バラバラなので、どちらかの側から物を見ようとすると必ず…、例えばですね、自分の内なる恐怖が出てくるのですね。廣田さんの場合も、見た形はとても美しい女性ですけど、心の中はやはりすごくグロテスクな恐怖でいっぱいなのだろうと。現在、写真のジャンルというものは、このように心理的なジャンルにまで飛び越えて入って来たのですね。ですから、数年前だったらコレクションの対象ではないですね。しかし現在ですから、これが非常に高く評価されてコレクションされると。とういうのは、自分の内面を深く見つめようとする往復運動ですね、肉体と精神の。それが写真でもイメージ化できるという、そういう最適な例だと思って僕は推薦しました。非常におもしろい作品です。

廣田:ありがとうございます。

 

 

 

2013年度YP購入作家 今村拓馬(いまむら たくま)
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今村拓馬氏(2013年度ヤング・ポートフォリオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

今村:ヤング・ポートフォリオで最初に買っていただいたのが2004年ですかね。(04、05、06、07、09、10、12年に購入)今回で8回買っていただいています。ずっと子供を撮っていて、震災以降は陸前高田の子供たちを撮り続けています。私は東北とは全く縁がなく、震災が起こってから陸前高田という名前を知りましたが、だんだん縁ができて、いろいろな人と繋がって。子供たちもそうなのですけれど、牡蠣の漁師さんとか、自治会長さんとか、いろいろな人たちと、まぁ半分飲みに行って、ついでに子供を撮っているんじゃないかと言われるくらいの感じで通っています。私自身はかつての風景を知らないのですが、これから先の未来は一緒に見られるのではないか、という風に思っています。同じ子たちを撮り続け、去年展示された子たちもここに2枚入っているのですけれど、ちょっとずつ成長しているという様子が、並べていただくと実はわかるのです。こうして、彼らがどういう風な大人になっていって、どういう風な陸前高田を作っていくのか、担っていくのかというのを私は一緒に見て行きたいなと思っています。

細江:僕が関心を持ったのは、陸前高田の子供たちが、非常に都会的な顔をしていることですよ。僕は都会と農村を差別しようという気など毛頭ありませんよ。しかし、現在の立場からこれを見ますと、あぁ日本がこのように変わってきているのだなと。それは背景が変わっているというよりも、もっと重要な、そこにいる人間の子供の顔が変わっている。そんな風に感じたのですよ。これはやはり、現代のすごいドキュメントであり、ドキュメントを見る時の、ひとつの視点ということも言えると思うのですね。ありがとう。

瀬戸:去年も拝見したのですけれど、同じ場所ですよね、陸前高田。一見、普通のポートレートなのですけれど、震災以降よく言われているように、写真が流され、アルバムもみんな失われた中で、ポートレートを見ると何かちょっとドキドキ感があるのですよね。つまり震災前と、それ以降のポートレートと見方というのが、ちょっと変わってきたのかなと思うのです。日本人の全員が、ですね。つまりこれは、彼ら彼女たちのアルバムなのですね。こういう作品を見る時に、撮影者である今村さんはもう既に関係ないと僕には思えるのです。この写真は誰のためにあるか。それは、彼のために、たぶん彼が何十年か後に見るための写真として残るのだろうなと。そんな風に思いました。

 

 

 

2013年度YP購入作家 木村 肇 (きむら はじめ)
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木村 肇氏(2013年度ヤング・ポートフォリオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

木村:今回初めて買っていただいた作品は、新潟のある小さな集落を昔からずっと撮ったもので、タイトルの《KODAMA》とは何か、よく質問されます。たとえば「言霊」という字には、魂とか自然に近い意味合いがすごく強いですが、「KODAMA」は、谷という字に牙と書く(谺・こだま)、何かもっと動物の存在や意味合いを込めて作った作品です。

細江:あなたの作品はすごく良いですよ。そして、作家であるあなたの立場からすれば、その説明で十分だとは思います。選考をする時はタイトルも何もない、作品だけです。しかし今は、なぜ「KODAMA」なのかなと感じるのですよ。もうすこし客観的な立場から、自分の作品をどのようにタイトリングするか、勉強のためにも、いろいろと考えた方がいいと思います。そうでないと、これだけの作品がむしろタイトルに負けてしまうというかな、余分なところで考えさせてしまうからね。タイトルを何十個も考えるということには、ものすごく意味があるのです。

瀬戸:僕は最近、会津若松の山奥マタギの人から聞いたんですが、クマというのは、一頭一頭の巣というか、冬眠する場所を全部把握されているんですってね。春先にそこへ行って、何頭分と決められたものを仕留めると。だからマタギは、山を歩いてクマを探しているわけではないんですよね。

木村:僕が知る限りでは半々ですかね。僕が行った時は、足跡を追いながら探すことも何回かありました。けれど、たぶん、ベーシックなのは、先ほどおっしゃられた方法だと思います。

瀬戸:地元の人は居場所が相当わかっていると聞いて、僕はビックリしたんですよ。それと、もうひとつは、プリント。古臭い、というか60、70年代の懐かしさを感じるのですが、どうなんですか、若き君としては。

細江:瀬戸さん、なぜ古く感じるかというのを説明してくださいますか。

瀬戸:そうですね、トーンの問題なのですね。60、70年代、僕らが写真を始めた頃は、技術的に空を黒くするなど、コントラストをつけてドラマティックに見せることが流行った時代で、それを通り抜けて来たからでしょうね。でも、その時代を知らない皆さんにとっては、逆に新鮮なのかを聞いてみたい。

木村:昔のことをよく知らないというのもあるのですけども、僕は、元々東京の郊外に育ち、こういう人里離れた所に行った経験がなく田舎への憧れみたいなのがあったのです。最初は、カラーでも撮ってみたのですが、あまりしっくり来ないし、よりイメージに近付けるためにモノクロで撮影しました。

細江:それで良いのですよ、古くないよ、決して。僕はモノクロが良いと思ったし、もしこれがカラーだったら、こういう強さが出て来なかったと思いますね。

 

 

 

2013年度YP購入作家 楊 哲一 YANG Che-Yi
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楊 哲一氏(2013年度ヤング・ポートフォリオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

*レセプションに出席しなかった台湾の作家、楊 哲一の作品《山水(六) Shan Shui(6) , 2008 》について、川田喜久治氏が、2013年度YPの中でも特に印象深い作品として講評くださいました。

川田:作者がみえない写真を講評するのが、僕は大好きなので(笑)。どうしても、作者がいますと思ったことを言えないのです。今回の第19回のヤング・ポートフォリオの中で、選考委員の全員が、最もスケールの大きい写真を見せてくれたなと感じました。ただスケールだけだと、ご存知のように西海岸のアメリカの偉大なる作家がたくさんおりますが、その人たちとはまた別な目を持ったアジアの目だと僕は確信しております。これだけの山を人工的に切り開いた所というのは…、仮にですね、所有したいという写真があるなら、この写真を3点とも所有したい、そういう気持ちになります。これを我が家に置いて、自分がオリジナルプリントを所有するという、そういう発想で、考えているわけなのです。これを所有した場合にですね、夜から昼、常日頃、特に夜などですね、一人でふと起きて家の中を歩いた時に、これを自分の部屋に飾っておいた時の広大なカタストロフ感(破滅的な感覚)、これは圧倒的なものがあると思うのですね。作者が相当大きなサイズに伸ばしている、その着眼も良いし、僕は今でもこれを頭の中に映像がなくても残っていた、一番推薦した作品です。そういうわけで非常に良い作品だと思います。

細江:もし作者があなたに買ってくれといったら、いくら位までなら買います?(笑)

川田:いくらでも出します!(笑)。

瀬戸:実は先月、台湾に行った時に、彼に会いに行こうと思ってアポを取ったのですけど、会えなかったのです。

川田:先に買わないでくださいよ(笑)。

瀬戸:いえ、そうではなくて(笑)。僕らのPlace Mというギャラリーで展示してもらおうと思って、その相談をしに行ったんです。けれど、会えなくて。

川田:写真の見方も、自分が好きな作品があったら、自分の手の中に所有する。そういう発想が、だんだん生ま

れてくると思いますので、皆さんもこれは自分のものにしたいといった時には、相当目が変わってくると思います。

 

 

 

2013年度YP購入作家 根本真一郎(ねもと しんいちろう)
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根本真一郎氏(2013年度ヤング・ポートフォリオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

根本:東京の街を歩いて撮った人の作品です。僕がこだわっている点は、人の一瞬の生々しさ、グロテスクな瞬間を、パッと演出したような感じで撮ることです。タイトルの《東京人形》、人形は、人の形という風にも読めますし、写真で人の形をはっきりとさせることで、人間をもっと強く表現したいというコンセプトです。

細江:歩いている人に、写真撮らせてくださいって言うんですか?

根本:いえ、撮らせてくださいと言ったことはないです。大体、真正面からパッと、本当に単純な撮り方ですけれども。

細江:ちょっとその時の状況を説明してくれますか。

根本:浅草はけっこうカメラを持っている人が多いのですが、例えば雷門とか、景色を撮っているフリをして、この人(被写体)が、偶然その前に出て来た、というような感じで撮りました。急に撮ると、だいたい驚くのですが、それが怒りに変わるまでに、けっこうタイムラグがあるんです。だから、その間に立ち去る。僕、かなり速さには自信あるので。

細江:カメラは何ですか?

根本:これ(NEW MAMIYA 6 中判のカメラ)です。フィルムはトライX、ストロボをマニュアルにして常に使用しています。被写体との距離は、大体1m20~30cmくらいと決めています。

瀬戸:1枚撮ってみて(笑)。

館長:撮らなくてもいいけどさ(笑)。

根本:…大体このくらいにして…、こうです(パシャッ!と撮影)。

一同:(笑)

細江:こういうのを持っている人には気をつけなくちゃいけないね(笑)。だが、今のあなたの、そのスピード感、何十年か経った時に、作品に臨場感が出るんですよ。最近はこういう写真を撮る人が少なくなった。かつての、いわゆるリアリズム写真の、スナップの時代にはこれが当たり前だったんです。当時はストロボなんか無かったから、知らないうちにパッと逃げることができたけれども。1発ストロボ焚いたら、もう2発目は撮れませんよね。

根本:そうですね、1発だけです。

細江:その瞬間、あなたはパッと離れていないと、やられますよね。

根本:はい(笑)。

細江:いや本当にそうですよ。そのくらい大変な写真だと僕は思います。写真家というのは…何と言うか、一種、時に人を傷付けるような時もあるのですよ。撮られて不快な気持ちを持つ人だっているかもしれない。だが、今は若いからできる。もう少し年を取ると、スリルのある写真は撮れませんね。そこをよく認識した上で、さらにもう一歩、突っ込んで撮ってみてください。

 

 

 

2013年度YP購入作家 坂口真理子(さかぐち まりこ)
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坂口真理子氏(2013年度ヤング・ポートフォリオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

坂口:私はもともと写真ではなくて、ダンスや演劇をやっていたので、人の身体の動きや日常生活の行為にすごく興味があります。例えばお風呂はお風呂場で入る、トイレはトイレでするという、別に誰が決めたわけでもない常識や慣習というのは、なかなか崩せないと思うのです。それが、ちょっと場所や組み合わせが変わった時、もし、ここではなかったら?と思った時に何かが生れて、私たちの生活が少し楽しくなればいいなと思って作品を作っています。

細江:平々凡々たるものと、極めて非現実的なものが一緒になった時に醸し出すおかしさと、恐ろしさと言いますかね。一種、批評的・批判的な疑問も出て来たり。そういう奇想天外な状況をセッティングして撮る、そういう写真家である。あなたはね。もっともっとこれを広げていったら、ものすごく面白いと思いますよ。

坂口:ありがとうございます。

細江:これをね、「This is JAPAN」というようなタイトルに仮にしたとします。ものすごい皮肉と諧謔とユーモアと、いろいろなものが出て来て、現代日本のある一面がぐっと出て来るといったような、そういう類の作品に成り得ると思うのです。やってくださいよ、まだまだあなたは若いんだから。

坂口:この作品が《訪々入浴百景》というタイトルでして、まだまだ撮影中ですので、家でひと風呂いかがという方がいたら、お声掛けください(笑)。皆さんが極々普通の生活の中で、ここでもやっている、こんなお家でもやっている、もしかしたら私の家にも来るかもしれない、という風に思った時に、ちょっとクスッと笑ってもらえたらいいなと思っています(笑)。

細江:ここにお湯が入っていますよね。どうやって入れたのですか?

坂口:だいたいのご家庭は、20mくらいのホースを持って行くとお風呂場なり流しなりに繋がるので、そこからいただいています。ちょっと遠いところは、非常用のウォータータンクで汲んでいます。

細江:お湯ですよね?

坂口:そうですね、たまに冷水の時もあります(笑)。

細江:終わった後、どのように処理しているのですか?

坂口:洗濯機の残り湯用のポンプを買って、ちょっと長めのホースを買って、いつも2、30mくらいのホースを2種類くらい担いでいます。

細江:ほぅ、すごいですね。これはあなたの友人たちの、あるいはあなたのお家?

坂口:そうですね、友人とか先輩のお婆様の家とか、紹介していただいた所です。これは私の祖母で、老人ホームに入居したので。老人ホームというと集団生活ですけれど、やっぱり日々暮らしている部屋なので。

細江:経営者には、どうやって頼みました?

坂口:普通に、「こういう作品を作っているので、いかがですか」とお願いしました。

細江:で、ここへ湯船を持って来て、お湯を入れますと。で、私が裸になりますと。だって、ここは病院の一室でしょ?じゃあ、院長先生にお願いしたんだ。

坂口:そうですね。「水、漏れないので大丈夫です」という風に。写真を見せて、以前、こういう所でやっていますと。院長先生も笑っていましたね(笑)。「大変ですね」っていう風に。

細江:そうですね、あなたがやっぱり若いからできたんですよ。これがね、ある年配の人がこれをやったら、「何をするんだろう…」と思うから。やっぱり若い内にしかできないことをやるべきだね。もっと、とてつもないことをね。

坂口:そうですね。若いうちに、百景撮りたいなと思っています。

 

 

 

2013年度YP購入作家 高橋尚子(たかはし なおこ)
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高橋尚子氏(2013年度ヤング・ポートフォリオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

高橋:私は写真を始めた10代の頃から撮っているものが特に変わらず、日々の中で、とにかく目の前で撮りたいものがあるから撮る、というだけのことをずっと繰り返してきました。テーマというと、結局はどうして私がそれを撮りたいのかということを考えていくことになるのです。ひとつひとつのものの背景の文脈というのはあまりなくて。ただ、ひとつひとつのものを通して、ここに存在するということは、光がここに確かに届いているということを確認するということが目的で。それを感じられることが、すごく私にとって重要なことなので、そういうことを感じられるものを常に探して生きているのかなと思います。

瀬戸:例えば、先ほどの坂口さんとか、山の作品の楊さんですね、ああいう写真はテーマがあって撮るので、わかりやすいと思います。でもこの写真は、その意味では、はっきりとしたメッセージとかテーマがない写真のひとつだと思うのです。けれど、その分、何か写真的なんですね。写真的というのは、ものすごく直感的で、ものすごく不安定で、その中でどう写真を成立させるかという。下手したら成り立たないことも有り得る中で撮っているから、僕は写真の緊張感が、ある意味で在ると思って選んだのですね。

高橋:ありがとうございます。

瀬戸:細江先生、いかがですか?

細江:全く同じですよ。これはね、絵でもできない、詩でもできない、物語でもできないといった類の、極めて写真的なものですね。直感的とでも言うかな。こういう写真は、数がたくさんあればあるほど、見応えがあると思うのですよ。今、展示している点数位ですとね、何を言っているかわからないとか、もしかすると誤解を受けるかもしれません。しかし、こういう写真で壁面がすべて埋まっていることを、皆さん想像してみてください。皆さんの狂気が誘発されるか、あるいは作者の気が狂うのか、というくらい、極めて戦闘的な写真に成り得ると思う。ちょっとした思いつきで数点作ることは、誰にでもできるかもしれない。でも百点これをやったらね、とんでもないと思うよ。そのとんでもなさが、この写真の特徴だと思うんですよね。そこを面白いと思ってもらえるということ、それは写真の鑑賞眼の幅が広がっているということですよ。ですから、あなた、ひとつの面白みを備えています。ぜひ、やれるうちに。これだんだんやれなくなります、だからやれるうちにやってください。

 

 

 

2013年度YP購入作家 田口 昇(たぐち のぼる)
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田口 昇氏(2013年度ヤング・ポートフォリオ)

 

 

 

 

 

 

 

 

田口:初めての応募で買っていただき、非常に嬉しいです。今回のシリーズは《Tele-Vision》というタイトルを付けました。その名の通り、テレビをi Phoneで接写しています。撮影したきっかけというのも、実は震災の日、僕は東京に住んでいるのですけれど、何とか家に帰れて、テレビの画面を点けたら、とんでもないことになっていて。でも僕自身は、東京で仕事もありますし、現地に行くこともできない。写真家として何ができるかということで直感的に感じたのは、手持ちのi Phoneでまずテレビを撮ってみようということでした。現在もまだ続けているのですけれども、時代の変化、例えば震災というひとつの事象があって、それがいつ終わり、人々の記憶からどれほど忘れられるのか、それを定点観測したいということが最初にありました。今回収蔵していただいたのは、2011年から1年間撮影した中から50点を応募して、その中から10点を選んでいただいたものです。

川田:これはつまり、フォトジェニックなのですよね。フォトジェニックなものを目の前から自分で排除してしまったら、写真というのは何にも成り立たなくなってくる。写真というのは、現象を全て写真化できるのですね。我々の日常の中で相当のウェイトを占めるテレビに向かって、なぜ撮らないかと、僕はかねがね思って、僕自身も撮ってはいるのですけれど、なかなか写真化できないのですね。そうしている内に、この写真に巡り会いましてね。写真というのは、カメラに正確な露出あるいは正確な露光を与えて、ブラしたりトーンを変えたりします。その場合、テレビの走査線が邪魔になるのですが、最近のテレビは、あまり気にならない。それと、高度なデジタルを使えば、あるいはi Phoneのようにプリミティブなカメラを使えば、そういうことはなく、人間が一番見たいという部分を見せようとする、欲望に満ちた写真になると思うのですね。ピントが合っていると、だいたい物だけに始終しますけれど、ボケることにより、背後の物、あるいはこの物の持っている中身、動きというものに関心が行くものなのですね。そういう人間の目のウィークポイントをこの作品は非常に突いていて、当時の3.11の例の不安、ひとつの終局を機にした、当時流れた画像の中から拾い出して、見事にそれ以後のドラマティックなシーンを描き切っていると思うのです。しかし、これだけを撮り続けてどこまでも行ってしまうことは危険ですので、これからはやはり、確たる見えるものを探して歩く、または見えないものを探す、ピントのシャープなものからですね。そういう繰り返しの作業をなさって、自分が求めるイメージに近付いて行ってもらえたらいいなと、そう思います。

展示室には、2013年度YP作品のほか、3名の選考委員の20代の頃の作品を、5点ずつ展示しています。当時をふりかえり、選考委員の方々に、それぞれの作品の前でスピーチいただきました。

 

 

 

2013年度YP選考委員 瀬戸 正人

瀬戸 正人(2013年度選考委員)

 

 

 

 

 

 

 

 

これらの写真の撮影地はバンコクです。僕はタイの田舎町で生まれ、小学校2年まで

過ごした後に日本に来て、家が写真館だったこともあって、カメラマンになろうと思った

のです。学校を出てアシスタントを終えたのが28歳。それで、さて何か作品を撮らな

きゃ、という時に思いついたのが、やっぱり昔住んでいた家を探しに行って、そこから

始めたいとバンコクに行ったのですね。今バンコクはちょっとした政変で、大変なこと

になっておりますけれど。撮るに当たってひとつ決めたのは「たくさん撮らなければい

けない」ということ。僕の先生である森山大道先生がそう仰っていたので、600本とか

800本のフィルムを持って行って、2ヶ月くらいでそれを撮り終えたら帰る。あるいは、

お金が無くなったら帰る。そういう感じで、とにかく写真漬けの体験を、自分で決めて、

やろうと思いました。当時ニコンサロンという登竜門があって、30歳までにそこでやらない

と、写真家になれないのではないかと、自分なりに何か思い詰めていたのですね。だから、

スナップショット、町の中で写真を撮る、人を撮るというのは、なかなか難しいのですけれ

ども、それをひとつひとつ乗り越えて、何か作っていく、そうでないと写真にならないの

だろうという、まずそういう写真的体験を自分でやってみたかった、ということが始まり

ですね。例えば、フィルムの数を平均すると1日十何本か撮らないと終わらないのですね。

もし今日、疲れて休んでしまうと、明日は20本撮らなければいけない。その翌日二日酔いだ、

どんどんどんどん借金のように増えていくという。ここに僕は写真の何か肉体性というか、

大事な要素があるのではないかと思っているのですね。なので、けっこう自分にノルマを

掛けたり、いろいろなリスクというか、その中で写真を作り上げたいなという風に思って、

ずっとやって参りました。

 

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