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井津建郎「ブータン 内なる聖地」


井津建郎「ブータン 内なる聖地」
Kenro IZU, BHUTAN - sacred within

会 期 :2008年6月28日(土)〜2009年1月25日(日)まで 
休館日 : 毎週火曜日(7,8月は無休、祝日の場合は開館)

年末年始休館:
展示替え休館:2008年6月23日(月)〜6月27日(金)


主催: 清里フォトアートミュージアム
     Kiyosato Museum of Photographic Arts(K'MoPA)

[開催趣旨]


清里フォトアートミュージアムは、1995年7月の開館以来、三つの基本理念、〈生命 (いのち) あるものへの共感〉〈永遠のプラチナ・プリント〉〈若い力の写真:ヤング・ポートフォリオ〉に基づき、収集・展示を行っています。

本展覧会について
「ブータン 内なる聖地」は、井津建郎(いず けんろう)の当館における三回目の個展となります。当館では、これまで1996年に「アンコール遺跡:光と影」、2001年に「アジアの聖地」を開催いたしました。本展は、2007年11月、ニューヨークのルービン・ミュージアムにて開催されたものですが、日本での発表は当館が初めてとなります。

これまで井津建郎は、エジプトのピラミッドを始め、スコットランドのストーンヘンジやカンボジアのアンコール遺跡、チベットのカイラス山など、数世紀にわたり人々が崇め、祈りの込められた世界の石造遺跡を訪ね、25年にわたって撮影を重ねてきました。そして、過酷な自然と時の流れに抱かれたその風景は、井津のプラチナ・プリントの静謐な空気感と、大型カメラによるディテールの精密な写真表現とが生み出す比類ない美しさによって、見るものを惹きつけてきました。

プラチナ・プリントは、文字どおりプラチナを利用した、古典技法として現代に残っている数少ない技法のひとつです。また、井津建郎のプラチナ・プリントは、世界でも第一人者として高い評価を得ています。


井津建郎
「 Druk # 20. 仏塔と祈りの旗」 ブータン2002
© IZU Kenro
[禁無断掲載]

井津建郎
「Druk # 2. クジェ寺院近くの祈りの旗」 ブータン2002
© IZU Kenro
[禁無断掲載]

井津建郎は、プラチナ・プリント用の大きなサイズの密着用ネガ(36X51センチ)を作るため、一式全部で100キロにおよぶ特製の大型カメラで撮影を行います。そして、手塗りの印画紙に焼き付けていく作業を今も続けています。会期中には、日本で初めて、井津によるプラチナ・プリント・ワークショップを2日間開催し、撮影から仕上げまでのプロセスをご覧頂きます。

なお、本展では、従来のプラチナ・プリントだけでなく、近年開発されたカーボン・ピグメント・プリントというデジタル技法による大型の作品(88.9x127センチ)も4点展示いたします。カーボン・ピグメント・プリントは、8色のモノクロインクによって可能となった豊かな階調表現と大変デリケートなテクスチュアが特徴です。

20年にわたり世界各地の<石造遺跡>を見つめて来た井津の眼差しは、いつしか、現在も遺跡を心の拠り所として祈りを捧げ、守り続ける<人びと>へと向けられて行きました。遺跡は、人びとの心の<内なる聖地>そのものなのだという新たな境地が、写真家を新たな地、ブータンへと導きました。


井津建郎
「 Druk # 257. 尼僧・ゲロ・ナムゲイ・ツェリング」 ブータン2005
© IZU Kenro

[禁無断掲載]

井津建郎
「Druk # 250. ツェチュ仮面を持つ寺院の子弟、タワログ・チピュ寺院」 ブータン2005
© IZU Kenro
[禁無断掲載]

ヒマラヤ山脈の東に位置する小さな仏教王国ブータン。国土は九州ほどの広さの小国ですが、南の国境はインド亜大陸、海抜二百メートルの亜熱帯、北は七千メートルを超えるヒマラヤの峰々という高度差を持っています。ベンガル湾の海水は、強烈な太陽に照らされて水蒸気となり、ヒマラヤにぶつかってブータンに激しい雨を降らせます。そして、この雨が大地に豊かな森を育み、空に雲と虹のアーチをもたらすのです。この雲と雷のどよめきを、龍と龍の鳴き声になぞらえて、人びとはブータンをドゥック・ユル、雷龍の国と呼んでいるのです。

雲の上の王国といわれれるブータンの人びとは、「風は宇宙の息」と言い、独特の宗教世界観を持っています。また、世界で唯一の仏教を国教とした国です。ブータンでは、前国王が1986年に「GNP(Gross National Product=国民総生産」ではなく「GNH(Gross National Happiness=国民総幸福)」を提唱し、物質的発展のために心の安らぎが損なわれてはならないことを信念に、独自の国作りが実践されています。GNHの世界観においては、環境や精神的、社会的な財産が重視されているのです。たとえば、1974年に宣言された森林政策には「国土の60パーセント以上を森林とする」と明記され、環境保護も国家の大きな柱となっています。

ブータンと出会い、6年にわたる撮影を終えた井津建郎の作品は、これまでとは異なる新しい世界を提示しています。人びとは何を求めて聖地を訪れるのか、聖地をつつむアウラは何を意味しているのか、それを読み解こうとするとき、ひとはまず自分自身を知ろうとするのかもしれません。井津は、ブータンの<内なる聖地>、その有りようをどのように写真に捉えたのか─。新作73点をどうぞご覧ください。


井津建郎
「Druk # 432. タムシン・ツェチュの太鼓を持つ男の子」 ブータン2006
© IZU Kenro
[禁無断掲載]


井津建郎
「Druk # 323. パロ・ゾン仮面の僧」 ブータン2006
© IZU Kenro
[禁無断掲載]

井津建郎
1949年大阪生まれ。1970年渡米。74年ニューヨークにKenro Izu Studioを設立。ティファニーやハリー・ウインストンなど主に宝石写真を手がける。作品は、プラチナ・プリントによる石造遺跡だけでなくヌードや花のスティル・ライフ作品も多く、メトロポリタン美術館をはじめ海外の多くの美術館に作品が収蔵されている。02年、プラチナ・プリントにサイアノタイプを重ねたシリーズ「BLUE」を発表。1993年よりアンコール遺跡の村に小児病院を建てるNPO活動「フレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダー」を始め、1999年に病院を創設。 07年10月、病院運営の功績と長年におよぶ創作活動に対し、写真界の“アカデミー賞”と言われ世界的業績を顕彰するルーシー・アワード(米)のビジョナリー賞を受賞した。ニューヨーク在住。
▼井津建郎公式サイト http://www.kenroizu.com

●井津建郎の写真集「KENRO IZU - BHUTAN Sacred Within」(Nazraeli Press, 2007年)の日本語版を当館のみにて販売いたします。
本展に出品された作品全73点すべて収録をほか、井津建郎によるエッセイ「ブータン幻想」「撮影ノート」国立ブータン学研究所(ティンプー)所長 ダショー・カルマ・ウラ氏による「GNHと仏教」を収録しています。
▼価格10,000円(ミュージアム・ショップ、オンライン・ショッピングにて取り扱います)



井津建郎
「Druk # 545. ジャンパ寺院で祈る若い妻」 ブータン2007
© IZU Kenro
[禁無断掲載]


井津建郎
「Druk # 564. プナカ・ゾンにて転生リンポチェ・ンガワン・ヨンテン・ギャッツオ」 ブータン2007
© IZU Kenro
[禁無断掲載]

井津建郎「ブータン幻想」より
意識を超越したかのように物静かな佇まいのトックセイ・リンポチェ。(高僧)
(中略)
チュメィ渓谷の庵に今は隠棲する彼を、撮影のために訪ねた折に感じた印象。その後ブータンでポートレィト撮影を重ねるほどに、この国の人々の自我の少なさに感じいる。
『自分自身であれ、以上でも以下でもない等身大の。』ということに私が努力をはらい続けてどれくらいの時がたったのか、、、この国の人々はなぜかこの資質を自然に身に着けているようだ。
(中略)
多くの国々がしのぎを削って増加を目指すGNP−国民総生産、かたやGNH (Gross National Happiness)―国民総幸福、の向上を目指すという理想主義を提唱し、ユニークな伝統と文化を誇りとするこの国には、現在の王政からの慎重な移行とその成功を願って止まない。
(中略)
このブータンというヒマラヤ山麓の小さな王国の存在こそがまさに21世紀の幻想かもしれず、ともすればそれを取り巻く圧倒的な霧と雲の中にあっけなく消えてしまう脆さを危惧せざるを得ない。
(写真集「BHUTAN- Sacred Within」には全文を収録)


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