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「清里フォトアートミュージアム収蔵作品展:原点を、永遠に。-2018-」

清里フォトアートミュージアム(K・MoPA)の収蔵作品より U-35の写真、409点

会期:2018年3月24日(土)~5月13日(日)  清里フォトアートミュージアム(KMoPA)は、東京都写真美術館において2度目となる「原点を、永遠に。-2018-」展を開催します。

 

 

 

 

 

 

 

 

アル・ラプコフスキー(ラトビア、1981)
《もっとレゴがほしい》2016年 ⒸAl Lapkovsky

■19-21世紀の“ヤング・ポートフォリオ” 本展はKMoPAの全収蔵作品の中から、写真家が35歳までに撮影した作品を展示いたします。19世紀以降の海外の著名な写真家35人、第二次世界大戦以後の日本を代表する31人、当館が世界の35歳以下を対象におこなう公募=ヤング・ポートフォリオから厳選した29人、計95人(各1-5点出品)409点の写真を公開いたします。 なお会期中に展示替えをおこない、同一作品を異なる順序でご覧いただきます。 前期<歴史篇>:3月24日~4月15日  1886-2016年の作品を撮影年代順に展示。青年が時代を切り拓いてきた軌跡をたどります。 後期<作家篇>:4月17日~5月13日 作家名をほぼアルファベット順に展示。一人ひとりの個性と写真の多様性に触れていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

細江英公(日本、1933)
《おとこと女 #20》1960年 ⒸEikoh Hosoe

■芸術における青年期の意義を問う 芸術家は、青年期に強い意志と情熱をもって試行錯誤を重ねることにより、才能・資質が高められ、作品のクオリティが磨かれます。研鑽を積んだ作家の多くは、おのずと30代には自己のスタイルを確立し、代表作となる作品を生みだしています。青年の原点とも言うべき作品が、表現の領域を開拓し、歴史を築いてきました。そこには永遠の輝きがあります。KMoPAは本展において、芸術における青年期の意義を問いたいと思います。

 

 

 

 

 

 

ロバート・キャパ(ハンガリー、アメリカ、1913-1954)
《連合軍による北フランス攻撃開始日(Dディ)、フランス、オマハ・ビーチ、1944年6月6日》1944年
ⒸRobert Capa/ICP/Magnum Photos

ロベール・ドアノー(フランス、1912-1994)
《ジェジェンヌの店の花嫁》1946年
ⒸAtelier Robert Doisneau/Contact

篠山紀信(日本、1940)
《誕生》1968年
ⒸKishin Shinoyama

荒木経惟(日本、1940)
《さっちん》1962-63年
ⒸNobuyoshi Araki

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関連イベント●●●ギャラリートーク 

3/24(土)14:00-15:00 中藤毅彦(写真家)× 柊サナカ(ミステリー作家)

3/25(日)14:00-15:00 瀬戸正人(写真家)

4/7(土) 14:00-15:00 川田喜久治(写真家) 

4/21(土)①14:00-15:00  /  ②16:00-17:00 鬼海弘雄(写真家)  

★ご予約不要 トーク会場=東京都写真美術館 地下1階展示室   

【本件に関するお問い合わせ】

清里フォトアートミュージアム TEL:0551-48-5599  info@kmopa.com

ジュリオ・ビッテンクール(ブラジル、1980)
《Ramos 13》2009年
ⒸJulio Bittencourt

G.M.B. アカシュ(バングラデシュ、1977)
《故郷に帰りたい》2007年
ⒸG.M.B. Akash

有元伸也(日本、1971)
《西蔵(チベット)より肖像》1996年
ⒸShinya Arimoto

マリヤ・コジャノヴァ(ロシア、1986)
《「無関心の表明」シリーズより メイド》2012年
ⒸMariya Kozhanova

ピョートル・ズビエルスキ(ポーランド、1987)
《無題「白い象 ? パス・バイ・ミー」シリーズより》2010年
ⒸPiotr Zbierski

 

清里フォトアートミュージアムとヤング・ポートフォリオ KMoPA(館長:細江英公)は、1995年、“写真と写真家のために生きる美術館”をめざして、清里に開館しました。 当館の基本理念のひとつが「若い力の写真:ヤング・ポートフォリオ」です。毎年35歳までの写真を世界中から公募、第一線の写真家による選考を経て、すぐれた作品を購入し、展覧会を開催しています。過去22年間に、世界74カ国から10,157人、128,831点の応募があり、45カ国、773人、5,974点の作品を永久保存しております。こうした活動は他に類を見ないものです。(公益社団法人・日本写真協会より2004年度文化振興賞を受賞)。 ?KMoPAは、若い写真家のチャレンジの場となり、彼らが切磋琢磨する生き生きとした現場でありたいと思います。戦後日本の写真家たちも、青年期に“巨匠”の作品に学び、いまや日本を代表する写真家として幅広く活躍しています。現在は、その作家が選考委員となり、後輩写真家たちに厳しくも温かいまなざしを注ぎ、成長を見守っています。若い写真家が、やがては次世代を育ててくれることでしょう。 これからもKMoPAは、写真家の原点を永遠に伝え、写真の未来を拓き、ヤング・ポートフォリオを通じて青年をはぐくんでいきたいと願っています。

【選考委員-39人】*ABC順 / 1995-2017年

荒木経惟、張 照堂(台湾)、 江成常夫、英 伸三、広河隆一、細江英公(館長)、今井壽惠、石元泰博、岩合光昭、十文字美信、川田喜久治、鬼海弘雄、木之下 晃、北島敬三、 クー・ボンチャン(韓国)、桑原史成、三好和義、森永 純、森山大道、本橋成一、長野重一、内藤正敏、奈良原一高、野町和嘉、大石芳野、坂田栄一郎、佐藤 明、瀬戸正人、篠山紀信、須田一政、高梨 豊、田沼武能、立木義浩、東松照明、富山治夫、土田ヒロミ、都築響一、上田義彦、横須賀功光

  • ヤング・ポートフォリオ作品募集!

対象:35歳以下の方。プロ、アマチュア、国籍を問わず、既発表作品も応募可。プリント最大50枚まで。

募集期間:毎年4月15日~5月15日   ヤング・ポートフォリオ専用サイト: www/kmopa.com/yp_entry

  • 過去のデータベース:www.kmopa.com 1995年からの収蔵作品をご覧いただけます。
  • K・MoPA基本情報  www.kmopa.com

W.ユージン・スミス(アメリカ、1918-1978)
《楽園への歩み》1946年
Ⓒ2017 The Heirs of W. Eugene Smith/PPS

ルシア・エレロ(スペイン、1976)
《ナバロ夫妻、トレド夫妻、マルティネス夫妻(「族」シリーズ)》2009年 ⒸLucia Herrero

 

 

エリオット・アーウィット(アメリカ、1928)
《コロラド州 割れたガラスと少年》1955年
ⒸElliott Erwitt/Magnum Photos

エド・ヴァン・デル・エルスケン(オランダ、1925-1990)
《アタ・カンドと3人の子ども、パリ、セーヴル》1953年頃
Nederlands Fotomuseum / ⒸEd van der Elsken

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出品作家一覧 (ABC順) ★=ヤング・ポートフォリオ作家  ●=ヤング・ポートフォリオ選考委員

ベレニス・アボット(アメリカ、1898-1991)

アンセル・アダムス(アメリカ、1902-1984)

G.M.B. アカシュ(バングラデシュ、1977)★

マヌエル・アルバレス・ブラボ(メキシコ、1902-2002)

荒木経惟(日本、1940)●

有元伸也(日本、1971)★

ワーナー・ビショフ(スイス、1916-1954)

ジュリオ・ビッテンクール(ブラジル、1980)★

ビル・ブラント(イギリス、1904-1983)

ブラッサイ(ハンガリー、フランス、1899-1984)

ロバート・キャパ(ハンガリー、アメリカ、1913-1954)

アンリ・カルティエ=ブレッソン(フランス、1908-2004)

張 照堂(台湾、1943)●

アルヴィン・ラングドン・コバーン(アメリカ、イギリス、1882-1966)

ブルース・デイヴィッドソン(アメリカ、1933)

ロベール・ドアノー(フランス、1912-1994)

ハロルド・E. エジャートン博士(アメリカ、1903-1990)

ERIC(イギリス、1976)★

エリオット・アーウィット(アメリカ、1928)

イスマイル・フェルドゥス(バングラデシュ、1989)★

ロバート・フランク(スイス、アメリカ、1924)

藤原新也(日本、1944)

エメット・ゴーウィン(アメリカ、1941)

ハン・スンピル(韓国、1972)★

英 伸三(日本、1936)●

エリザベス・ハウスト(ロシア、1992)★最年少

林 典子(日本、1983)★

ロバート・ハイネケン(アメリカ、1931-2006)

ルシア・エレロ(スペイン、1976)★

ルイス・ハイン(アメリカ、1874-1940)

本城直季(日本、1978)★

細江英公(日本、1933)●

今井壽恵(日本、1931-2009)●

石元泰博(日本、1921-2012)●

岩合光昭(日本、1950)●

フィリップ・ジョーンズ=グリフィス(イギリス、1936-2008)

亀山 亮(日本、1976)★

ユーサフ・カーシュ(アルメニア、カナダ、1908-2002)

川田喜久治(日本、1933)●

アンドレ・ケルテス(ハンガリー、アメリカ、1894-1985)

鬼海弘雄(日本、1945)●

木之下 晃(日本、1936-2015)●

北島敬三(日本、1954)●

北野 謙(日本、1968)★

ウイリアム・クライン(アメリカ、1928)

ヴィクトル・コーエン(ギリシャ、1967)★

マリヤ・コジャノヴァ(ロシア、1986)★

桑原史成(日本、1936)●

アル・ラプコフスキー(ラトビア、1981)★

セルゲイ・レベディンスキー(ウクライナ、1981)★

三木 淳(日本、1919-1992)

ラファル・ミラフ(ポーランド、1978)★

三好和義(日本、1958)●

百瀬俊哉(日本、1968)★

森山大道(日本、1938)●

長野重一(日本、1925)●

内藤正敏(日本、1938)●

中藤毅彦(日本、197)★

奈良原一高(日本、1931)●

野町和嘉(日本、1946)●

大石芳野(日本、1944)●

アダム・パンチュク(ポーランド、1978)★

アーヴィング・ペン(アメリカ、1917-2009)

ジル・ペレス(フランス、1946)

トニー・レイ=ジョーンズ(イギリス、1941-1972)

坂口真理子(日本、1987)★

ジョージ・H. シーリー(アメリカ、1880-1955)

瀬戸正人(日本、1953)●

デイヴィッド・シーモア(ロシア、ポーランド、アメリカ、1911-1956)

下薗詠子(日本、1979)★

篠山紀信(日本、1940)●

白川義員(日本、1935)

ユージン・スミス(アメリカ、1918-1978)

ギジェルモ・シュロデック=ハート(アルゼンチン、1977)★

ジョエル・スターンフェルド(アメリカ、1944)

アルフレッド・スティーグリッツ(アメリカ、1864-1946)

ルー・ストーメン(アメリカ、1917-1991)

フランク・メドウ・サットクリフ(イギリス、1853-1941)

髙木忠智(日本、1977)★

高梨 豊(日本、1935)●

田沼武能(日本、1929)●

立木義浩(日本、1937)●

東京るまん℃(日本、1980)★

東松照明(日本、1930-2012)●

富山治夫(日本、1935-2016)●

土田ヒロミ(日本、1939)●

植田正治(日本、1913-2000)

ジェリー・N. ユルズマン(アメリカ、1934)

エド・ヴァン・デル・エルスケン(オランダ、1925-1990)

ムネム・ワシフ(バングラデシュ、1983)★

エドワード・ウエストン(アメリカ、1886-1958)

ハンネ・ファン・デル・ワウデ(オランダ、1982)★

楊 哲一(台湾、1981)★

横須賀功光(日本、1937-2003)●

ピョートル・ズビエルスキ(ポーランド、1987)★

◎本展は、主催者の清里フォトアートミュージアムが、真如苑・社会貢献基金の助成を受けて開催いたします。

Curator’s Choice

「マヌエル・アルバレス・ブラボ:メキシコ、静かなる光と時」展(世田谷美術館)を見て

清里フォトアートミュージアム 学芸員・山地裕子


<1997年、アルバレス・ブラボ展をKMoPAにて開催>

現在、世田谷美術館にて開催中のマヌエル・アルバレス・ブラボ展。アルバレス・ブラボの展覧会はこれまで世界中で多数開催されてきましたが、同展では、作家の遺族が運営するアーカイブの協力を得て、困難だった撮影年の特定を試み、192点を時系列に展示することで、20世紀メキシコを生きた写真家の仕事の全容を見ようとするものでした。多数の展示資料と充実した図録も発行され、本当に大変な準備作業だったことと想像しますが、ラテン・アメリカの偉大な写真家の本格的な展覧会が開催されたことは、今後、日本の写真にさまざまな影響を及ぼすものと思います。 実は、マヌエル・アルバレス・ブラボの展覧会を、KMoPAでも1997年(6/21-10/26)、メキシコ大使館の協力により開催しています。KMoPAでの展覧会は、日本初の美術館における個展であり、多くの写真関係者にとって、メキシコを代表する巨匠の作品を初めて目にする機会となりました。 当館館長の細江にとっても、アルバレス・ブラボの日本での展覧会は、長年待ち望んだものでした。アルバレス・ブラボ・アーカイブでは、細江館長より「ぜひあなたの作品を見たい」と熱望する手紙が何通も見つかったとのこと。1996年、駐日メキシコ大使館文化部のエギアルテ氏から、メキシコでも“マエストロ”として知られる細江館長へ、日本への巡回の打診があった時の細江館長の興奮した様子は言うまでもありません。大使館の協力が得られるとのことで、早々に会期を設定し、国際協力基金の助成も得て、開催の運びとなったのです。 KMoPAでの展覧会は、作品数176点。メキシコ文化省が世界各地を巡回させていた回顧展で、代表作を網羅した内容となっていました。当時、マヌエル・アルバレス・ブラボは95歳。高齢のため来日出来ませんでしたが、夫人であり写真家でもあるコレット・ウルバフテルをオープニングにお迎えし、当館の開館2周年記念と併せてレセプションを行いました。

メキシコの至宝:マヌエル・アルバレス・ブラヴォ展チラシ表 1997年6月21日?10月26日

メキシコの至宝:マヌエル・アルバレス・ブラヴォ展チラシ表面
1997年6月21日?10月26日

チラシ裏面

チラシ裏面

当時の展示風景

展示風景

 

オープニング・レセプションにてご挨拶されるコレット夫人。

オープニング・レセプションにて挨拶をするコレット夫人。

右から田沼武能(当時日本写真家協会会長)、夫人のコレット・アルバレス・ウルバフテル、細江館長

右から田沼武能氏(日本写真家協会会長)、コレット夫人、細江館長

<メキシコのアルバレス・ブラボ邸を訪れて>

1996年11月、同展を終了した直後、私は国際写真キュレーター会議「オラクル」に出席するため、細江館長に同行し、メキシコを訪れました。その際、細江館長、サンディエゴ写真美術館館長のアーサー・オルマン、イスラエル美術館キュレーターのニッサン・ペレスとともに、メキシコ・シティのコヨアカン地区にあるアルバレス・ブラボ邸を訪れる機会を得ました。(*文中役職はすべて当時)

居間にて。細江館長(左)とアーサー・オルマン氏。オルマン氏の後ろの壁には、ベレニス・アボット撮影のウジェーヌ・アジェの肖像が掛けられていた。

居間にて。細江館長(左)とアーサー・オルマン氏。オルマン氏の後ろの壁には、ベレニス・アボット撮影のウジェーヌ・アジェの肖像が掛けられていた。

アルバレス・ブラボ邸入り口、大きな竜舌蘭が

アルバレス・ブラボ邸入り口。右手に大きな竜舌蘭(サボテン)。右からニッサン・ペレス、アーサー・オルマン、細江館長

風が気持ちよく通る居間には、中庭の見える大きなガラス窓。その奥の部屋で“ドン・マヌエル“(尊敬を込めた愛称)は、ベッドに横たわったまま、笑顔で来客を迎えてくれました。メキシコ独特のデザインの椅子が置かれた居間で、コレット夫人やアシスタントと穏やかなひとときを過ごしてから、自宅から少し歩いたところにある暗室へ案内されました。光の降り注ぐ居間での光景は、私の中で圧倒的なものとして、今も鮮やかに蘇ります。 居間の壁には、ベレニス・アボット撮影のウジェーヌ・アジェとジェームズ・ジョイスの肖像を含む数枚の写真が飾られていました。世田谷美術館での展覧会に際して来日したアルバレス・ブラボの娘で、アーカイブを管理しているアウレリア・S. アルバレス・ウルバフテルによると、ジョイスはアルバレス・ブラボの好きな作家の一人で、『ユリシーズ』も初版本の複製を含む数冊を所蔵していたそうです。そして、アジェもアルバレス・ブラボが敬愛する写真家の一人でした。別の部屋にはティナ・モドッティの“Flor de Manita”(小さな手のような形をした花の意、1925年撮影、プラチナ・プリント)と並べて、アルバレス・ブラボの1928年撮影の《アイスクリーム売り車の上の小馬》(Caballito de Carro de Helados)が飾られていたそうです。

マヌエル・アルバレス・ブラボ《アイスクリーム売り車の上の小馬》1928 ?2016 Colette Urbajtel / Archivo Manuel Alvarez Bravo., S.C., Mexico City

マヌエル・アルバレス・ブラボ《アイスクリーム売り車の上の小馬》1928、プラチナ・プリント、当館所蔵
Ⓒ2016 Colette Urbajtel / Archivo Manuel Alvarez Bravo., S.C., Mexico City

 

アルバレス・ブラボ邸中庭

アルバレス・ブラボ邸中庭にて(山地撮影、1997年)

自宅の中庭や窓は、たびたびアルバレス・ブラボの被写体となっていましたが、90歳を越えてからは特に頻繁に撮影し、シリーズ〈内なる庭〉を発表しています。窓枠にからむ光と影の一瞬の戯れも、アルバレス・ブラボの撮影によって、詩情あふれるモノクロの世界に ー その生涯を貫いた写真への思いは、まさに次の言葉に集約されています。 ? ? ? ? ? 「私にとって写真とは、見る技法です。ほぼそれに尽きるといえます。見える物を撮り、絵画と違って、ほとんど改変もしない。こうした姿勢でいると、写真家には予期せぬものを、実に上手に生かせるのです。」(1970年) (『マヌエル・アルバレス・ブラボ ー メキシコ静かなる光と時』2016、クレヴィスより)

<当館所蔵のアルバレス・ブラボ作品:プラチナ・プリント>

当館では、アルバレス・ブラボの作品を12点収蔵しています。《アイスクリーム売りの二輪車の上についた小さな馬》を含むプラチナ・プリントのポートフォリオ10点と、1997年の展覧会時に夫人から寄贈された作品《眼の寓話》(Parabola optica, 1931年,プラチナ・プリント)、そして、もう1点は、写真家ロバート・ハイネケン(米、1931-2006)が所蔵していた作品で、《誘惑、アントニオの庭にて》(Tentaciones en casa de Antonio,1970)です。

ポートフォリオ(ケース)

当館所蔵のポートフォリオ(ケース)

プラチナ・プリントの制作については、世田谷美術館の展示室最後部での展示および図録の巻末において、写真家ジェイン・ケリーが撮影した、室作業を行うアルバレス・ブラボの写真が紹介されていますが、その時のプリントが、当館所蔵のポートフォリオです。

アルバレス・ブラボの暗室

アルバレス・ブラボの暗室(山地撮影、1997年)

アルバレス・ブラボは、古い写真や機材、古典技法に強い関心を持っていました。初めてプラチナ・プリント技法をアルバレス・ブラボに紹介したのは、メキシコに滞在していたティナ・モドッティで、1928年頃でした。モドッティは、既成のプラチナ印画紙のロール(断裁していないロールの状態)を持っていたのですが、モドッティの関心は、当時他の技法にあったため、アルバレス・ブラボに譲ったとのこと。そのロール紙からアルバレス・ブラボが制作した初めての作品が、自宅に掛けられていた《アイスクリーム売りの車の小馬》でした。ポジ画像よりも、むしろネガの見え方の方に惹かれ、そちらを作品化したというイメージです。その後、しばらくして、再度そのロール紙からプラチナ・プリントを制作しようとしましたが、湿気などの原因で用紙が劣化してしまい、さらに既製品も生産されなくなっていました。 ? ? それから約50年の後、再びアルバレス・ブラボのプラチナ・プリントへの興味が再燃した理由は、モドッティの没後、彼に託されたモドッティのネガを見ていて、彼女の作品は、ゼラチン・シルバーよりもプラチナ・プリントの方が適していると感じたことからでした。折しも、アメリカでは、アーヴィング・ペンなど多くの写真家が、プラチナ・プリント技法を復活させようと夢中になっていました。 アルバレス・ブラボは、ニューヨーク近代美術館写真部長のジョン・シャーカフスキーから、写真家リチャード・ベンソン(現イェール大学写真学科助教授)が作ったプラチナ・プリント技法マニュアルを譲り受け、4年間の試行錯誤の後、ようやく10枚のポートフォリオ制作にたどり着いたのです。

暗室にて

暗室にて(カラー引き伸ばし機)

暗室にて。細江館長(左)が動かしているのは、ヴァキュームによってネガと印画紙を密着させ、ガラス版を回転させて露光するプリント用機器。

暗室にて。細江館長(左)が動かしているのは、ヴァキューム・プリンター(ヴァキュームによってネガと印画紙を密着させ、ガラス版を回転させて露光するプリント用機器)

 

ヴァキューム・プリンター(密着焼きと紫外線露光用の機器)

ヴァキューム・プリンター

薬品棚

暗室内の薬品棚

 

ドライ・ルーム。左手は、大きなドライマウント用のプレス機。

ドライ・ルーム。左手は、大きなドライマウント用のプレス機。

 

暗室の外に置かれていた子ども用の馬の乗り物。

暗室の外に置かれていた子ども用の馬の乗り物。

歴史、政治、文学、映像、舞台、美術、工芸、デザイン、内外のさまざまな影響を受けた豊穣なメキシコ文化。歴史や偶然が生み出した美やユーモアと写真家の視点が交差し、いとも簡単に切り取られたように見える一方で、現実と非現実のあわいが、幻想的で、摩訶不思議な世界を感覚させるアルバレス・ブラボの写真。世田谷美術館での会期は、残すところあと1日。終了後は、名古屋市美術館、静岡市美術館へ巡回されます。ぜひご覧になってはいかがでしょうか。 当館所蔵のアルバレス・ブラボのプラチナ・プリント・ポートフォリオは、定期的に開催しているプラチナ・プリント収蔵作品展にて展示いたします。 78歳当時の写真家が選んだ10点はどのイメージだったのか。アルバレス・ブラボは、イメージによって印画紙に使用する水彩画用紙も変え、色調も、冷たい黒や赤みのあるグレーなど、個々に調整しています。次回の展示をどうぞお楽しみに。

ヤング・アート・タイペイ(Young Art Taipei)を訪れて

清里フォトアートミュージアム 学芸員・田村泰男


4月22日から24日まで3日間、台北にて開催されていた2016 Young Art Taipei(台湾)主催の写真ポートフォリオ・レビューに、レビューワーとして招かれ、現地へ行って参りました。 Young Art Taipeiは、現代美術のイベントとして8年前に始まり、3年前より写真もその一部門となりました。 _DSC3753-1

台北市内に掲げられたYoung Art Taipeiのバナー

台北市内に掲げられたYoung Art Taipeiのバナー

【Young Art Taipei】 会場は、台北市内にあるシェラトンホテル。9階のフロアーを貸し切り、出展者は1室を1ブースとして展示しています。ホテルのベッドの上は勿論、バス・トイレまで使っての展示です。最終日の会場は大勢の若い人で溢れ、熱気と盛り上りが感じられました。日本からの出展者もあり、中にはYPOB(山本功巳氏、山内悠氏、松井泰憲氏)が自分の作品や写真集を販売する姿も見られました。頼もしい限りです。

左はM.Y.Ku. ART PROJECTの山本功巳氏(YPOB)。右は、現在「YP2015」 にて作品展示中の松井泰憲氏。

左はM.Y.Ku. ART PROJECTの山本功巳氏(YPOB)。右は、現在「YP2015」
にて作品展示中の松井泰憲氏。

赤々舎ブースにて。ポートフォリオ・レビュー審査員と赤々舎の姫野希美氏(左から5人目)、右から2人目はYPOBの山内悠氏。赤々舎から出版した写真集を自ら販売しておりました。私、田村は左端です。

赤々舎ブースにて。ポートフォリオ・レビュー審査員と赤々舎の姫野希美氏(左から5人目)、右から2人目はYPOBの山内悠氏。赤々舎から出版した写真集を自ら販売しておりました。私、田村は左端です。

1839 Contemporary Galleryディレクター・邱奕堅氏(右)と山内悠氏。

1839 Contemporary Galleryディレクター・邱奕堅氏(右)と話す山内悠氏。

【ポートフォリオ・レビュー】

台北芸術村  

台北芸術村

審査員全員での記念撮影

審査員全員での記念撮影

ポートフォリオ・レビューは、4月23日、台北駅から徒歩10分の場所にある台北芸術村にて行われました。審査員は全11名。台湾5名、日本3名、韓国、香港、北アイルランドより各1名でした。 一番右がポートフォリオ・レビューのディレクター・沈昭良氏(写真家)です。日本からは、田村の他、菅沼比呂志氏(ガーディアン・ガーデン)、姫野希美氏(赤々舎)が審査員として招かれていました。 レビューの参加者は26名で、一人の審査員が12人のポートフォリオ・レビューを行います。すべての作品を見た後に、審査員の投票でベスト・ポートフォリオを1名選考しました。台湾の作家の作品には、台湾の現在を捉えたものが目立ちました。その中でベスト・ポートフォリオに選ばれたのが李岳凌氏の“Listening to the Dark”で、台湾の夜の街をスナップしたカラー作品で、幻想的でした。ヤング・ポートフォリオへの応募を勧めましたが、残念ながら40歳とのこと。今後の活躍が期待される作家です。 また、ベスト・ポートフォリオに最後まで残った陳淑貞さんの“After”が審査員特別賞に選ばれました。この作品はホテルの客が帰った後の部屋の様子を撮った作品で、選考員に強い印象を与えておりました。この二人以外にも台湾の写真表現の広がりとレベルの高さを感じました。 ポートフォリオ・レビュー参加者の中には松井泰憲氏、ハオ・リー(台湾)氏、チョン・コクユウ氏(マレーシア)などYP作家の姿もありました。 ベスト・ポートフォリオ:李岳凌“ Listening to the Dark”

Yehlin Lee “Listening to the Dark”

Yehlin Lee “Listening to the Dark”

Yehlin Lee “Listening to the Dark”

Yehlin Lee “Listening to the Dark”

 

Yehlin Lee “Listening to the Dark”

Yehlin Lee “Listening to the Dark”

李4

Yehlin Lee “Listening to the Dark”

 

Yehlin Lee “Listening to the Dark”  cYehlin Lee

Yehlin Lee “Listening to the Dark”  cYehlin Lee

審査員特別賞:陳淑貞“After”

Chen Shu Chen “After”

Chen Shu Chen “After”

Chen Shu Chen “After”

Chen Shu Chen “After”

Chen Shu Chen “After”

Chen Shu Chen “After”

Chen Shu Chen “After”

Chen Shu Chen “After”

Chen Shu Chen “After” cChen Shu Chen

Chen Shu Chen “After”
cChen Shu Chen

【アートフォーラムでのYPレクチャー】 ポートフォリオ・レビューの翌日、同じ会場にてアートフォーラムが開催されました。韓国、日本、台湾からの講師が、スライドを使ってそれぞれの国の写真事情を解説。参加者は約60名。若い人が中心で、大変熱心に見ていました。 私はYPについてのスライドショーを行い、応募を呼び掛けてきました。終了直後に、「応募します」という声を直に聞くことができました。

ガーディアン・ガーデンの菅沼氏(右)

ガーディアン・ガーデンの菅沼氏(右)

沈昭良氏による開会の挨拶

沈昭良氏による開会の挨拶

KMoPAは、2014年のTaipei Photo Show (TAPS)にて、事務長の小川によるYPレクチャーを行っております。2015年度YP募集に早速その影響は現れ、台湾のハオ・リー、シム・チャン、ウォン・ウェイ・チョン3人の作品を収蔵いたしました。 台湾では2度目となる今回のレクチャーでも、現地の作家たちと直接言葉を交わし、作品を見るということが、作家にとっても、KMoPAにとっても、良い結果に繋がることを期待します。今後も積極的に機会をとらえて、台湾をはじめ世界の国々に広くYPを知っていただき、ご応募いただきたいと思っております。

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