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KMoPA開館30周年記念展 後期「写真と肖像 顔から風景へ」

 

*チラシ画像をクリックすると拡大します。

 

山元彩香《Untitled / Nous n'irons plus au bois》2013年 © Ayaka Yamamoto

山元彩香《Untitled / Nous n’irons plus au bois》2013年 © Ayaka Yamamoto

 
 
 

開催概要

展覧会名: 開館30周年記念展 後期「写真と肖像 顔から風景へ」
30th Anniversary Commemorative Exhibition
Part Two (July 5 [Sat.] — October 13 [Mon. National holiday]):
Photography and Portraiture: From Faces to Landscape
会  期: 2025年7月5日(土)~10月13日(月・祝) *7/5~9/1まで無休
会  場: 清里フォトアートミュージアム
主  催: 清里フォトアートミュージアム委員会
特別協賛: 真如苑(社会貢献基金)
開館時間: 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日: 毎週火曜日 *9月23日(火・祝)は開館
入館料: 一般800円(600円)、
大学生以下無料、山梨県北杜市にお住まいの方は入館無料

*( )内は20名様以上の団体料金

*家族割引1,200円(2〜6名様まで)

アクセス: 車にて:中央自動車道須玉I.C.または長坂I.C.より車で約20分
J R:中央本線小淵沢駅にて小海線乗り換え 清里駅下車、車で約10分

 
 
 

本展のチラシおよびプレスリリース(PDFファイル)

当館公式HP 「チラシと報道資料」コーナー をご覧ください。

 
 
 

清里フォトアートミュージアム(KMoPA)は、今年で30周年を迎えます。
開館記念展は、若い写真家たちを刺激し、激励することを目的とした「25 人の20代の写真」展からはじまりました。30周年記念展ではそのオマージュの意味もこめて、1万点以上に及ぶKMoPAコレクションのなかから「25人のU35(35歳以下)の写真」を新たな視点で厳選し、写真の原点、そしてKMoPAの原点を見直す展覧会を、二期に分けて開催します。前期の「冒険」に続く本展では「肖像」がテーマです。
 
肖像には長い歴史があります。まだ写真が発明されてなかった頃の肖像画は、生きた証、理想像、権力の誇示など、時代背景や目的に応じて描かれてきました。写真が発明されると、安価で短時間でできる肖像写真の需要は一挙に高まります。当初、写真には写実性が求められましたが、絵画と同じく、記憶をとどめ、内面世界を表現し、尊厳を訴え、社会的存在として写しだすなど、様々な試みが行われてきました。
 
本展では、肖像をテーマに、自己と他者、社会、風景の重層的な関係を見ていきます。
写真を通じて世界はどのように現れてくるのでしょうか。
 
ゲストキュレーター:楠本亜紀(Landschaft/インディペンデント・キュレーター、写真批評家)

 
 
 
 

展示構成

「肖像」のテーマで、KMoPAコレクションから厳選された約150点。
 
1. 他者に触れる
出品作家:エドワード・S. カーティス、ブラッサイ、森山大道、山元彩香、渡辺浩徳
 
2. 私とは誰か セルフポートレイトとジェンダー
出品作家:ジョー・アン・キャリス、パトリシア・シュワルツ、アリョーナ・ランダーロワ、マリー・ヴェングラー、ルー・ユーファン
 
3. 共同体を生きる
出品作家:エメット・ゴーウィン、奈良原一高、瀬戸正人、山本雅紀、アダム・パンチュク
 
4. ドキュメンタリー
出品作家:林 典子、G.M.B. アカシュ、桑原史成、星 玄人、田代一倫
 
5. 人と風景
出品作家:植田正治、ハンネ・ファン・デル・ワウデ、桑島 生、北島敬三、ロバート・フランク

 
 
 
 

見どころ

【KMoPAを象徴するU35(35歳以下)の作家たち】

清里フォトアートミュージアム(KMoPA)の30周年記念展ということで、写真の原点、そして写真の未来につながるような展示にしたいと考えました。そうして出てきたテーマが「冒険」(前期)と「肖像」です。さらにそこにKMoPAを象徴するU35(35歳以下)というくくりを設けることによって、写真家たちにとっても原点といえるような作品の数々を展示します。出品作家は1868年生まれの巨匠から、1992年生まれの新進作家まで、120年以上の隔たりがありますが、すべて35歳以下で制作した写真です。
 
 

【エドワード・S. カーティスの古典技法によるプリント】

KMoPAは、収集・展示の三つの基本理念のひとつに 「永遠のプラチナ・プリント」を掲げています。今回はエドワード・S. カーティス(1868-1952)による、20世紀初頭に撮影され、古典技法を用いた作品を6点展示します。カーティスは、アメリカ先住民の尊厳ある姿を後世に伝えようと、細部の陰影も美しく、ほぼ劣化することのないプラチナ・プリントやオロトーンの技法を用いた写真を生み出し、先住民に対して思い描く「理想像」を永遠にとどめようとしました。一方で、現実では、豊かな自然とともに生きてきた先住民たちの文化は失われつつありました。写真は、「イメージ」でも「現実」でもあり、なかでも肖像は、私たちに倫理の問題も含めたさまざまな問いを投げかけます。そうした写真の複雑さにも、展示をとおして向き合えればと思います。

エドワード・S. カーティス《シワワチワ ズニ族》1903年

エドワード・S. カーティス
《シワワチワ ズニ族》1903年

 
 

【他者に触れる】

写真は、いまだかつて見たことのないものをとらえる力をもちます。異国の地で、その人に染み付いている固有名詞を取り払い、見たことも無い「何者か」に触れたいと願い、言葉も通じない被写体とともに時間を過ごし、制作したという山元彩香(1983-)の作品は、写真を見るものにとってもとらえ難さを残したまま、「他者」の存在を感じさせます。

山元彩香《Untitled / Nous n'irons plus au bois》2013年 © Ayaka Yamamoto

山元彩香
《Untitled / Nous n’irons plus au bois》2013年
© Ayaka Yamamoto

 
 

【セルフ・ポートレイト】

写真では、誰が誰を撮るのかということはとても重要な意味をもちます。時に、写真家と被写体の間には避け難い不均衡が生じがちです。セルフ・ポートレイトはそれを避けることができるとともに、自分がどうやって他者から見られているかを考えることができる手段です。KMoPAコレクションのなかからセルフ・ポートレイトの作品を選んでいると、気づけばすべてが女性の作家でした。彼女たちがセルフ・ポートレイトで問いかけるものは何なのでしょうか。ファブリケイテッド・フォトグラフィの分野でシンディ・シャーマンに先がける作家として再評価が進むジョー・アン・キャリス(1940-)の初期作品も展示されます。

ジョー・アン・キャリス《無題》1974年 © Jo Ann Callis

ジョー・アン・キャリス
《無題》1974年
© Jo Ann Callis

 
 

【顔から風景へ】

「写真と肖像」と聞くと、顔ばかりが並ぶ展覧会を想像しませんか? 本展では「顔から風景へ」という副題にもあるように、肖像を、「顔をとらえたもの」だけに限定しません。肖像=ポートレイトの語源には「引き出す」という意味が含まれていますが、外観を写しだすだけではなく、その人の存在に関わる何かを引き出すこと、それが肖像だと考えます。そして、人は人を取り巻く環境、風景とは切っても切れない関係にあります。
本展覧会で取り上げる作家は25人。ポーランドの辺境で、土地に根差した暮らしをする人々と協働しながら撮影したアダム・パンチュク(1978-)、オランダ独特の平坦な風景をバックに赤毛の人物をとらえたハンネ・ファン・デル・ワウデ(1982-)、マイナス40度にも達する極寒の冬にも、石油の富によって人工的な南国都市を造ろうとするカザフスタンの都市をとらえた桑島 生(1984-)、鳥取砂丘で撮り続けた植田正治(1913-2000)、東日本大震災後に被災地である三陸、福島に通いつづけて撮影した田代一倫(1980-)の写真など。ポートレイト、ドキュメンタリー、スナップショット、風景の垣根を超えて、肖像のテーマから立ち現れるものは何でしょうか。最後を飾るのは、KMoPAが誇るロバート・フランク(1924-2019)の一大コレクションの中から選んだ作品です。フランクによる不朽の名作「アメリカ人」にはどのような「肖像」が写しだされているのか、展示を通じて見つめ直す機会となれば幸いです。

アダム・パンチュク《カルチェビー》2008年 © Adam Panczuk

アダム・パンチュク
《カルチェビー》2008年
© Adam Panczuk

ハンネ・ファン・デル・ワウデ《MC1R (Natural red hair) - Monica》2007年 © Hanne van der Woude

ハンネ・ファン・デル・ワウデ
《MC1R (Natural red hair) – Monica》2007年
© Hanne van der Woude

桑島 生《極寒未来都市アスタナ(1)》2010年 © Ikuru Kuwajima

桑島 生
《極寒未来都市アスタナ(1)》2010年
© Ikuru Kuwajima

植田正治《少女たち》1945年 © Shoji Ueda / Shoji Ueda Office

植田正治
《少女たち》1945年
© Shoji Ueda / Shoji Ueda Office

田代一倫《はまゆりの頃に #8》2011年 © Kazutomo Tashiro

田代一倫
《はまゆりの頃に #8》2011年
© Kazutomo Tashiro

 
 
 
 

展示作品より

エドワード・S. カーティス《シワワチワ ズニ族》1903年

エドワード・S. カーティス《シワワチワ ズニ族》1903年

 

山元彩香《Untitled / Nous n'irons plus au bois》2013年 © Ayaka Yamamoto

山元彩香《Untitled / Nous n’irons plus au bois》2013年 © Ayaka Yamamoto

 

ジョー・アン・キャリス《無題》1974年 © Jo Ann Callis

ジョー・アン・キャリス《無題》1974年 © Jo Ann Callis

 

田代一倫《はまゆりの頃に #8》2011年 © Kazutomo Tashiro

田代一倫《はまゆりの頃に #8》2011年 © Kazutomo Tashiro

 

桑島 生《極寒未来都市アスタナ(1)》2010年 © Ikuru Kuwajima

桑島 生《極寒未来都市アスタナ(1)》2010年 © Ikuru Kuwajima

 

ハンネ・ファン・デル・ワウデ《MC1R (Natural red hair) - Monica》2007年 © Hanne van der Woude

ハンネ・ファン・デル・ワウデ《MC1R (Natural red hair) – Monica》2007年 © Hanne van der Woude

 

アダム・パンチュク《カルチェビー》2008年 © Adam Panczuk

アダム・パンチュク《カルチェビー》2008年 © Adam Panczuk

 

植田正治《少女たち》1945年 © Shoji Ueda / Shoji Ueda Office

植田正治《少女たち》1945年 © Shoji Ueda / Shoji Ueda Office

 
 
 
 

パトリ展

エントランスホール パトリ
初代館長・細江英公の写真集閲覧特設スペース

2025年3月20日(木・祝)〜10月13日(月・祝)

火曜日休館 *7/5~9/1まで無休 *9月23日(火・祝)は開館

 

初代館長 細江英公

初代館長 細江英公

 
20世紀を代表する世界的写真家の1人であり、1995年7月の清里フォトアートミュージアム開館より初代館長を務めた細江英公。世界の若手写真家を支援する公募・選考・展示・収蔵を行う「ヤング・ポートフォリオ」(YP)を創設・牽引し、後進の育成に情熱を注ぎ続けました。本展では、細江英公館長へのオマージュとして、写真集、著作を自由に閲覧いただけるスペースをご用意いたします。
 
【細江英公(HOSOE Eikoh)略歴】
1933年山形県米沢市に生まれ、東京で育つ。1951年富士フォトコンテスト・学生の部最高賞受賞をきっかけに、写真家を目指す。1959年、東松照明、奈良原一高、川田喜久治らとともに写真家によるセルフ・エージェンシー「VIVO」を結成、戦後写真の転換期における中心的な存在となる。三島由紀夫を被写体とした「薔薇刑」(1963)や、舞踏家・土方巽を被写体とした「鎌鼬」(1969)など、特異な被写体との関係性から紡ぎ出された物語性の高い作品を次々と発表した。一方で国内外での写真教育、パブリック・コレクションの形成等、社会的な活動にも力を注いだ。東京工芸大学名誉教授。1995年より当館館長。2003年、「生涯にわたり写真芸術に多大な貢献をした写真家」として英国王立写真協会より創立150周年記念特別勲章を受賞したほか、2010年、文化功労者。2017年、写真家として初めて生前に旭日重光章を受章した。
 

特設スペースの展示風景

 
 
 
 

屋外展示

KMoPAガーデン 写真の森

2025年3月20日(木・祝)〜10月13日(月・祝)

火曜日休館 *7/5~9/1まで無休 *9月23日(火・祝)は開館

 
KMoPAは、八ヶ岳南麓の深い緑と澄んだ大気につつまれた、標高1000メートル地点にあります。開館30周年を記念し、初めて写真による屋外展示「写真の森」を行います。瀬戸正人館長が、当館の収蔵作品をはじめとする写真作品を選び、緑あふれるKMoPAガーデン内の森に展示します。光と影、そして森を抜ける風のなか、写真はどのように見えてくるのでしょうか。
 

写真の森の展示風景(イメージ)ターポリン生地にプリントされた写真作品2点が、森の木々にロープで固定されている様子

 

瀬戸正人館長

瀬戸正人館長

 
 
 

会期中のイベントについて

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お問い合わせ

取材のお申込み、画像データにつきましては info@kmopa.com / TEL: 0551-48-5599 までお問い合わせください。
 
〒407-0301 山梨県北杜市高根町清里3545-1222 清里フォトアートミュージアム
Tel: 0551-48-5599(代表)
Fax: 0551-48-5445
Email: info@kmopa.com
HP: www.kmopa.com

KMoPA開館30周年記念展 前期「写真の冒険 前衛から未来へ」

 

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ヴィクトル・コーエン《若さを奪われた者たちの肖像(「務めと遊び」シリーズより)》1999年 Ⓒ Viktor Koen

ヴィクトル・コーエン
《若さを奪われた者たちの肖像(「務めと遊び」シリーズより)》1999年
Ⓒ Viktor Koen

 
 
 

開催概要

展覧会名: 開館30周年記念展 前期「写真の冒険 前衛から未来へ」
30th Anniversary Commemorative Exhibition
Part One (March 20 [Thu., national holiday] — Jun. 15 [Sun.]): Adventures in Photography: From the Avant-Garde to the Future
会  期: 2025年3月20日(木・祝)〜6月15日(日)
会  場: 清里フォトアートミュージアム
主  催: 清里フォトアートミュージアム委員会
特別協賛: 真如苑(社会貢献基金)
開館時間: 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日: 毎週火曜日 *4月29日(火・祝)、5月6日(火・祝)は開館
入館料: 一般800円(600円)、大学生以下無料

*( )内は20名様以上の団体料金

*家族割引1,200円(2〜6名様まで)

アクセス: 車にて:中央自動車道須玉I.C.または長坂I.C.より車で約20分
J R:中央本線小淵沢駅にて小海線乗り換え 清里駅下車、車で約10分

 
 
 

本展のチラシおよびプレスリリース(PDFファイル)

当館公式HP 「チラシと報道資料」コーナー をご覧ください。

 
 
 

清里での30年
世界初の抽象写真からヤング・ポートフォリオ作品(YP)まで

 
清里フォトアートミュージアムでは、2025年3月20日(木・祝)から6月15日(日)まで、
開館30周年記念展 前期「写真の冒険 前衛から未来へ」を開催いたします。

 
1995年の開館記念展では、若い写真家たちを刺激し、激励することを目的に日本の戦後を代表する写真家「25人の20代の写真」展からはじまりました。
 
30周年記念展ではそのオマージュの意味もこめて、1万点以上に及ぶKMoPAコレクションのなかから「25人のU35(35歳以下)の写真」を新たな視点で厳選し、写真の原点、そしてKMoPAの原点を見直す展覧会を2会期に分けて開催します。前期では写真という新しい技術や視覚を用いた「冒険」。 後期(7-10月開催)では写真がそもそも発明されるきっかけともなった「肖像」をテーマにします。
 
写真は人間の視覚や思考を刷新する可能性を秘めています。本展では世界初の抽象写真(アルヴィン・ラングドン・コバーン「ヴォートグラフ」)から、シュルレアリスム(クラレンス・ジョン・ラフリンほか)、SF写真(内藤正敏)、コラージュ(ヴィクトル・コーエンほか)、多重露光(北野 謙ほか)、チェルノブイリ事故で放射線に被爆したフィルムで撮影された写真(小原一真)まで、写真の発明当初から行われてきたさまざまな実験的な作品を紹介します。若さあふれる写真家たちの果敢なチャレンジの軌跡をご覧ください。
 
ゲストキュレーター:楠本亜紀(Landschaft/インディペンデント・キュレーター、写真批評家)

 
 
 
 

展示構成

「冒険」のテーマで、KMoPAコレクションから厳選された約130点。
出品作家は開館記念展と同じく25人。1882年生まれから1994年生まれまで100年以上の隔たりがありますが、過去の巨匠も現代の新進写真家も、すべて35歳以下で制作した写真です。
 
1. 抽象写真とシュルレアリスム
出品作家:アルヴィン・ラングドン・コバーン、マヌエル・アルバレス・ブラボ、クラレンス・ジョン・ラフリン
 
2. 戦後の挑戦
出品作家:ジェリー・N. ユルズマン、キース・スミス、カール・トス、細江英公、今井壽惠、内藤正敏、今 道⼦
 
3. ヤング・ポートフォリオ(YP)の作家たち
—実験的な試み、シュルレアリスム的な試み、重ねる・コラージュ的な試み—

出品作家:⼩林良造、クリストス・クケリス、イ・ジュンヨン、⼭内 悠、⾕⽥梗歌、⽥⼝ 昇、ミハエラ・スプルナー、ヴィクトル・コーエン、ピョートル・ズビエルスキ、芽尾キネ、北野 謙、井上⿇由美、⼩原⼀真、チョン・ミンス、Ryu Ika

 
 
 
 

見どころ

【普段は一同に並ぶことのないような作品群】

清里フォトアートミュージアム(KMoPA)の30周年記念展ということで、写真の原点、そして写真の未来につながるような展示にしたいと考えました。そうして出てきたテーマが「冒険」と「肖像」(後期)です。さらにそこにKMoPAを象徴するU35(35歳以下)というくくりを設けることによって、いわゆる「写真の教科書」的な展示にはなっていません。たとえばシュルレアリスムといえば名の挙がるウジェーヌ・アジェの作品は彼の後年の作品なので取り上げられません。代わりに、写真家たちにとっても原点といえるような、写真にふれる歓びと驚きに満ちた、実験的で冒険的な作品の数々に出会うことになるでしょう。世界初の抽象写真からチェルノブイリ事故で放射線に被爆したフィルムで撮影された写真まで。「人間と機械の混成系」(多木浩二/美術評論家)である写真の可能性を、ぜひ体感ください。
 
 

【世界初の抽象写真と呼ばれる「ヴォートグラフ」】

アルヴィン・ラングドン・コバーン(アメリカ/イギリス、1882-1966)は、アルフレッド・スティーグリッツ周辺の前衛的な芸術家たちの影響を受け、ファイン・アートとしての写真の確立を目指すフォト・セセッション(写真分離派)の創立メンバーとなります。その後、イギリスに起こった美術や詩に関する運動で、 渦巻派とも呼ばれる「ヴォーティシズム」の影響を受け、極端なパースペクティブや抽象的なかたちに強く興味を抱き、鏡やガラスを用いた世界初の抽象写真とも評される革新性の高い作品を発表しました。

アルヴィン・ラングドン・コバーン《マリウス・デ・ザヤスのヴォートグラフ》1912年頃

アルヴィン・ラングドン・コバーン
《マリウス・デ・ザヤスのヴォートグラフ》1912年頃

 
 

【アメリカン・シュルレアリスムの父】

クラレンス・ジョン・ラフリン(アメリカ、1905-1985)は「アメリカン・シュルレアリスムの父」と呼ばれます。日本ではまだそれほど知られてはいませんが、KMoPAでは日本でも有数のコレクションを有しています。廃墟や南部特有の木などを通じて、その場に漂う目には見えないものの気配までを作品世界にとらえようと様々な試行錯誤を繰り返しました。

クラレンス・ジョン・ラフリン《愛の行方を誰が知る》1940年 Ⓒ The Clarence John Laughlin Archive at the Historic New Orleans Collection

クラレンス・ジョン・ラフリン
《愛の行方を誰が知る》1940年
Ⓒ The Clarence John Laughlin Archive at the Historic New Orleans Collection

 
 

【再評価が進む1950、60年代の実験的な作品】

近年、前衛的な初期作品の評価がとみに高まり、作品集『Hisae Imai』(赤々舎、2022年)も出版された今井壽惠(1931-2009)。1950年代にデビューし、抽象と具象が混じり合う造形を、モノクロで実験的に表現した「白昼夢」から、国際主観主義写真展に出品したといわれる「窓—物語」、詩的で文学的な世界を構築し、高い評価を得た「オフェリアその後」シリーズまでをご覧になれます。
 
早稲田大学で化学を専攻した内藤正敏(1938-)は化学反応によって生まれる現象を接写し、「SF写真」と呼ばれる幻想的な作品を多数生み出しました。高分子物質(ハイポリマー)などを化学変化させ造形化した《トキドロレン》は、「時間泥棒連合」という架空の生物群を表した内藤による造語です。東京都写真美術館での個展でも、蛍光色の枠に彩られたこの作品は異彩を放ち話題になりました。

内藤正敏《トキドロレン》1962-63年 Ⓒ Masatoshi Naito

内藤正敏
《トキドロレン》1962-63年
Ⓒ Masatoshi Naito

 
 

【細江英公の原点 《鎌鼬》ヴィンテージプリント】

本館館長を開館時よりつとめていた細江英公(1933-2024)の不朽の名作《鎌鼬》ヴィンテージプリントを展示します。1968年に開催された「とてつもなく悲劇的な喜劇、日本の舞踏家 天才〈土方巽〉主演写真劇場」(ニコンサロン)は、各界に衝撃を与えました。この作品は若かりし日の細江と土方による稀有で即興的なコラボレーションによるもので、カメラが介在したからこそ生まれた、まさに「写真劇場」と呼ばれる世界です。また、当時日本では使用されていなかったアグファのロール状印画紙を輸入して制作されたプリントは、豊富な銀と定着不足による経年変化で銀が表面に浮き出しています。細江も愛でていたという写真の圧倒的な物質性と、細江の原点ともいえる作品世界をご覧ください。

細江英公《鎌鼬 作品17》1965年 © Eikoh Hosoe

細江英公
《鎌鼬 作品17》1965年
© Eikoh Hosoe

 
 

【ヤング・ポートフォリオ(YP)の作家たち】

KMoPAの「ヤング・ポートフォリオ」事業は若手写真家(35歳以下)の登竜門ともいえるまでに成長し、国内外から毎年多数の応募者を迎えています。初期の応募者の中には、今では一線で活躍する写真家もたくさんいます。ヤング・ポートフォリオの特徴は、ドキュメンタリー系の写真、シュルレアリスム系の写真、実験写真など、他の写真賞ではあまり見られない写真との真摯で初々しい出会いによって生まれた作品が多く含まれていることです。ここでは実験的、シュルレアリスム的、重ねる・コラージュ的な試みの作品をとりあげます。
 
20世紀初頭に撮影されたアンテークの写真を用いながら、子供たちの純粋な好奇心や創造性を抑圧する極端なイメージを描き、古典技法のフォトグラヴュールでプリントしたヴィクトル・コーエン(ギリシャ、1967-)、2011年3月の東日本大震災をきっかけに、iPhoneを用いて、テレビのニュースが映る液晶画面のドット上に構成されるもう一つの現実を被写体とした田口 昇(1980-)、現代社会に張り巡らされる検閲や、見る見られるの関係性を無数のレイヤーで可視化させ、ノイズに満ちた世界の様相をあぶりだすRyu Ika (中国、1994-)、原発から1キロ地点の廃墟で発見されたウクライナ製のモノクロフィルムを用いて撮影された作品で、世界報道写真賞をはじめ、国際的な賞を多数受賞した小原一真(1985-)など、写真を通じて世界との関係を思索し、可視化しようとした作家による作品のほか、氷の様々な表情をとらえた谷田梗歌(1977-)、富士山七合目にある山小屋に600日間滞在し、雲上の来光を撮り続けた山内 悠(1977-)など、カメラならではの表現もお楽しみください。

 
 
 
 

広報用画像一覧

アルヴィン・ラングドン・コバーン《マリウス・デ・ザヤスのヴォートグラフ》1912年頃

アルヴィン・ラングドン・コバーン
《マリウス・デ・ザヤスのヴォートグラフ》1912年頃

 

Ryu Ika《The Second Seeing_Back Stage2》2020年 Ⓒ Ryu Ika

Ryu Ika
《The Second Seeing_Back Stage2》2020年
Ⓒ Ryu Ika

 

ヴィクトル・コーエン《若さを奪われた者たちの肖像(「務めと遊び」シリーズより)》1999年 Ⓒ Viktor Koen

ヴィクトル・コーエン
《若さを奪われた者たちの肖像(「務めと遊び」シリーズより)》1999年
Ⓒ Viktor Koen

 

内藤正敏《トキドロレン》1962-63年 Ⓒ Masatoshi Naito

内藤正敏
《トキドロレン》1962-63年
Ⓒ Masatoshi Naito

 

小原一真《Exposure》2015年 Ⓒ Kazuma Obara

小原一真
《Exposure》2015年
Ⓒ Kazuma Obara

 

ミハエラ・スプルナー《Carnival》2010年 Ⓒ Michaela Spurna

ミハエラ・スプルナー
《Carnival》2010年
Ⓒ Michaela Spurna

 

細江英公《鎌鼬 作品17》1965年 © Eikoh Hosoe

細江英公
《鎌鼬 作品17》1965年
© Eikoh Hosoe

 

クラレンス・ジョン・ラフリン《愛の行方を誰が知る》1940年 Ⓒ The Clarence John Laughlin Archive at the Historic New Orleans Collection

クラレンス・ジョン・ラフリン
《愛の行方を誰が知る》1940年
Ⓒ The Clarence John Laughlin Archive at the Historic New Orleans Collection

 
 
 
 

パトリ展

エントランスホール パトリ
初代館長・細江英公の写真集 閲覧特設スペース

2025年3月20日(木・祝)〜10月13日(月・祝)

*ただし、6月16日(日)〜7月4日(金)は展示入れ替えのため休館

 

初代館長 細江英公

初代館長 細江英公

 
20世紀を代表する世界的写真家の1人であり、1995年7月の清里フォトアートミュージアム開館より初代館長を務めた細江英公。世界の若手写真家を支援する公募・選考・展示・収蔵を行う「ヤング・ポートフォリオ」(YP)を創設・牽引し、後進の育成に情熱を注ぎ続けました。本展では、細江英公館長へのオマージュとして、写真集、著作を自由に閲覧いただけるスペースをご用意いたします。
 
【細江英公(HOSOE Eikoh)略歴】
1933年山形県米沢市に生まれ、東京で育つ。1951年富士フォトコンテスト・学生の部最高賞受賞をきっかけに、写真家を目指す。1959年、東松照明、奈良原一高、川田喜久治らとともに写真家によるセルフ・エージェンシー「VIVO」を結成、戦後写真の転換期における中心的な存在となる。三島由紀夫を被写体とした「薔薇刑」(1963)や、舞踏家・土方巽を被写体とした「鎌鼬」(1969)など、特異な被写体との関係性から紡ぎ出された物語性の高い作品を次々と発表した。一方で国内外での写真教育、パブリック・コレクションの形成等、社会的な活動にも力を注いだ。東京工芸大学名誉教授。1995年より当館館長。2003年、「生涯にわたり写真芸術に多大な貢献をした写真家」として英国王立写真協会より創立150周年記念特別勲章を受賞したほか、2010年、文化功労者。2017年、写真家として初めて生前に旭日重光章を受章した。

 
 
 
 

屋外展示

KMoPAガーデン 写真の森

2025年3月20日(木・祝)〜10月13日(月・祝)

*ただし、6月16日(日)〜7月4日(金)は展示入れ替えのため休館

 
KMoPAは、八ヶ岳南麓の深い緑と澄んだ大気につつまれた、標高1000メートル地点にあります。開館30周年を記念し、初めて写真による屋外展示「写真の森」を行います。瀬戸正人副館長が、当館の収蔵作品をはじめとする写真作品を選び、緑あふれるKMoPAガーデン内の森に展示します。光と影、そして森を抜ける風のなか、写真はどのように見えてくるのでしょうか。
 

写真の森の展示風景(イメージ)ターポリン生地にプリントされた写真作品2点が、森の木々にロープで固定されている様子

 

瀬戸正人副館長

瀬戸正人副館長

 
 
 

会期中のイベントについて

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後期の予告

開館30周年記念展 後期「写真と肖像 顔から風景へ」

会期:2025年7月5日(土)〜10月13日(月・祝)

 
 
 

K・MoPAとは

清里フォトアートミュージアム / Kiyosato Museum of Photographic Arts=KMoPA(ケイ・モパ)は1995年、写真専門の美術館として山梨県北杜市に開館。館長は写真家の細江英公、副館長は写真家の瀬戸正人。
下記3つの基本理念に沿い、本年は活動30周年を迎えます。
 
1. 生命(いのち)あるものへの共感
2. 永遠のプラチナ・プリント
3. 若い力の写真:ヤング・ポートフォリオ

*「ヤング・ポートフォリオ」(YP)とは、35歳以下の若手写真家を支援する世界で唯一の文化貢献活動です。

 
 
 

お問い合わせ

取材のお申込み、画像データにつきましては info@kmopa.com / TEL: 0551-48-5599 までお問い合わせください。
 
〒407-0301 山梨県北杜市高根町清里3545-1222 清里フォトアートミュージアム
Tel: 0551-48-5599(代表)
Fax: 0551-48-5445
Email: info@kmopa.com
HP: www.kmopa.com

2024年度ヤング・ポートフォリオ展

 

本年第30回を迎えた「2024年度ヤング・ポートフォリオ」を
2024年10月19日(土) ~ 12月8日(日)まで開催

 
北欧、ウクライナ、アジアから日本まで、2024年度収蔵作品104点を一堂に展示
コロナ禍以降のニューノーマルや社会問題を見つめ直した作品が多数集結

 
清里フォトアートミュージアム(K・MoPA/ケイモパ、山梨県北杜市)は、10月19日(土)から12月8日(日)まで「2024年度ヤング・ポートフォリオ」展を開催いたします。
ヤング・ポートフォリオ(YP)とは、K・MoPAが開館以来毎年開催している、世界の35歳までの青年の作品を公募・購入・展示する文化活動です。本展では、世界46カ国、459人、9,229点の応募作品から厳選された、22人による104点を展示します。
K・MoPAに結集した若手写真家の情熱を、本展で感じていただければ幸いです。
 
 

「2024年度ヤング・ポートフォリオ」展のフライヤー表面の画像。今年度のデザインは黄色地に黒文字。抜粋した購入作品の画像が7枚並ぶ

 

「2024年度ヤング・ポートフォリオ」展のフライヤー裏面の画像。裏面は白地。購入作家名一覧、選考委員、美術館の利用案内(入館料など)、表面とは違う購入作品の画像が8枚

 

セルゲイ・メルニチェンコ(ウクライナ、1991)〈戦争の刺青〉シリーズより《ミコライウの爆撃されたアパートのプロジェクションとアントン #4》2023 ⒸSergey Melnitchenko

セルゲイ・メルニチェンコ(ウクライナ、1991)〈戦争の刺青〉シリーズより《ミコライウの爆撃されたアパートのプロジェクションとアントン #4》2023 ⒸSergey Melnitchenko

 
 
 

開催概要

展覧会名: 2024年度ヤング・ポートフォリオ
会  期: 2024年10月19日(土)~12月8日(日)
会  場: 清里フォトアートミュージアム
主  催: 清里フォトアートミュージアム委員会
特別協賛: 真如苑(社会貢献基金)
開館時間: 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休 館 日 : 毎週火曜日
入 館 料 : 一般 800円(600円) 本展に限り35歳以下無料
( )内は20名様以上の団体料金
アクセス: 車にて:中央自動車道須玉I.C.または長坂I.C.より車で約20分
J R:中央本線小淵沢駅にて小海線乗り換え 清里駅下車、車で約10分

 
 
 

2024年度ヤング・ポートフォリオ(第30回)データ

選考委員: 今 道子、百瀬俊哉、レスリー・キー(一次選考のみ)、瀬戸正人(副館長)、細江英公(館長、特別選考委員)
作品募集期間: 2024年1月10日~2月20日
応募者数: 459人(世界46カ国より) 応募点数:9,229点
購入者数: 22人(国内9人・海外13人 /12カ国)
日本/中国/台湾/シンガポール/インド/フィンランド/ウクライナ/ドイツ/トルコ/クロアチア/オランダ/フランス
購入点数: 104点(全作品を展示いたします)

 
 
 

4人の選考委員の初期作品を展示

今 道子、百瀬俊哉、瀬戸正人(副館長)の初期作品、すなわち”選考委員のヤング・ポートフォリオ”作品(全16点)を同時 に展示いたします。
 

選考風景(左から)百瀬俊哉氏、今 道子氏、瀬戸正人(副館長)

選考風景(左から)百瀬俊哉氏、今 道子氏、瀬戸正人(副館長)

 
 
1995年の開館以来、清里フォトアートミュージアム(K・MoPA)の館長を務めておりました細江英公が、2024年9月16日(月)、91歳で永眠いたしました。
2024年度ヤング・ポートフォリオ(YP)展(第30回)では、YPの創設者であり、選考委員長としてすべての応募作品に目を通してきた細江英公館長を偲び、初期作品より「ポーディちゃん」、「おとこと女」、そして「薔薇刑」、「鎌鼬」(ポスター/横尾忠則デザイン)全10点を展示いたします。
 

ポートレート。細江英公 ©Jean-Baptiste Huynh

細江英公 ©Jean-Baptiste Huynh

 

作品画像。細江英公《ポーディちゃん》 1950年 ⒸEikoh Hosoe

細江英公《ポーディちゃん》
1950年 ⒸEikoh Hosoe

 

作品画像。細江英公《薔薇刑 作品32》 1961年 ⒸEikoh Hosoe

細江英公《薔薇刑 作品32》
1961年 ⒸEikoh Hosoe

 
 
 
 

第30回「2024年度ヤング・ポートフォリオ」の見どころ

第30回という節目を迎えたYP2024では、コロナ禍以降のニューノーマルの世界で、自国の文化や社会問題を見つめ直した作品、身近な物事の価値を再認識した作品、国家間の移動が再開され他国での出会いへの喜び、そして戦場からの痛切な思いが込められた作品と、どれも今ここにある「生」と向き合う表現が多く見られました。瀬戸選考委員の「全て皆さんの”初期作品”になるわけですよね。初々しさもあり、荒々しさもあり、不完全なところが実に魅力的だといつも思っています。」という言葉にあるように、若き眼差しの持つ共振力をご覧いただけますと幸いです。

 
 
 

セルゲイ・メルニチェンコ(ウクライナ、1991)
作家とその友人家族の故郷、ウクライナ南部の州都ミコライウはロシア軍のミサイル攻撃を受け、多くの人と建物が破壊されました。《戦争の刺青》では、変わり果てた故郷の風景をプロジェクターで友人たちの身体に投影して撮影されました。故郷の写真を選ぶ行為は「まるで自分たちを一番苦しめる写真や記憶を選ぶようなもの」であり、苦痛に満ちた記憶が「刺青」のように刻まれたポートレートです。映像と写真を組み合わせる手法が非常に効果的で、戦地の情報だけでは想像し難い、被害を受けている人々の苦しみと痛みがダイレクトに伝わる写真です。

セルゲイ・メルニチェンコ(ウクライナ、1991)〈戦争の刺青〉シリーズより《ミコライウの爆撃されたアパートのプロジェクションとアントン #4》2023 ⒸSergey Melnitchenko

セルゲイ・メルニチェンコ〈戦争の刺青〉シリーズより《ミコライウの爆撃されたアパートのプロジェクションとアントン #4》2023 ⒸSergey Melnitchenko

 
 
 

タハ・アフマド(インド、1994)
《パドラの白鳥の歌》はインドの都市ラクナウでかつて栄えた伝統的な刺繍ムカイシュ・パドラの歴史をリサーチし、わずかに残る職人家族を記録した作品です。インドの複雑な社会構造によって周縁に追いやられたコミュニティーを、ドキュメンタリーとして状況を伝えるだけでなく、静謐で美しい画面構成で鑑賞者を惹き寄せ、被写体へ関心を呼び起こす、写真の力を感じられる作品です。

タハ・アフマド(インド、1994)《バドラの白鳥の歌》2016 ⒸTaha Ahmad

タハ・アフマド《バドラの白鳥の歌》2016 ⒸTaha Ahmad

 
 
 

カスパー・ダールカル(フィンランド、1991)
《母と息子》はその名の通り作家自身と母親のポートレート写真です。美術史を振り返ると老いゆく母親と成長した息子を題材とすることは珍しく、ダールカルの鋭い着眼点が発揮されています。この二人には父親の死という共通のトラウマがあり、その経験と向き合う過程で変化していった親子関係が本作の起点となりました。しかし単に親子関係を私的に表すだけでなく、撮影地やライティング、絵画的な構図など、徹底した演出で物語性を高め、”人間の自然な老い”という誰もが直面するテーマを表現することも試みています。

カスパー・ダールカル(フィンランド、1991)《サウナ(パパに捧ぐ)、母と息子》2022 ⒸKasper Dalkarl

カスパー・ダールカル《サウナ(パパに捧ぐ)、母と息子》2022 ⒸKasper Dalkarl

 
 
 

黄愛(中国、2001)
《KABRALA》はカメラやレンズを使わず、暗室作業のみによって制作された作品です。自身の手や指、髪を用いて、光や現像液による化学反応を操作しながらモノクローム印画紙にさまざまな”顔”を描きます。黄は子供の頃に欠伸発作という突然意識がなくなる症状に悩まされ、周囲から切り離される感覚が本作に大きく影響しています。幼い頃から画家になることを考えていた作家が、写真材料と出会ったことで生まれた作品は、独自性と唯一性に溢れ、写真表現の奥深さを見ることができます。

黄愛(中国、2001)《KABRALA》2024 ⒸHuang Ai

黄愛《KABRALA》2024 ⒸHuang Ai

 
 
 

カイヤ&ブランク(トルコ、ドイツ、1990)
Işık KayaとThomas Georg Blankは2019年よりアーティストユニットとして活動しています。《Second Nature(第二の自然)》は、自然に擬態させるデザインの電波塔を撮影したシリーズです。携帯電話の普及とともに電波塔が世界各地に多数設置され、1992年に松の木を模したデザインが設置されると、それに倣った電波塔が増加し景観は一変しました。作家はこの奇妙な造形物には、テクノロジーと自然、デジタルと物理的な世界との関係性が象徴されていると言います。本作は、現実とフィクションの境界を曖昧にさせ、鑑賞者へ様々な疑問を投げかけてくるでしょう。

カイヤ&ブランク(トルコ、ドイツ、1990)《第二の自然 #89》2020 ⒸKaya & Blank

カイヤ&ブランク《第二の自然 #89》2020 ⒸKaya & Blank

 
 
 
 

YP2024作品購入作家

=過去のヤング・ポートフォリオでも作品を収蔵した作家
 
1. タハ・アフマド(インド、1994)
2. アマノミツキ(日本、1989)
3. ウェージャン・チャン(シンガポール、1991)
4. オレクシー・チョイストーツィン(ウクライナ、2000)
5. カスパー・ダールカル(フィンランド、1991)
6. バスティアン・デシャン(フランス、1990)
7. トマ・ヘルジャ(オランダ、2003)
8. 黄愛(中国、2001)
9. 川口 翼(日本、1999)
10. カイヤ&ブランク(トルコ、ドイツ、1990)
11. クガハルミ(日本、1995)
12. キャン綾菜(日本、1992)
13. 李 若琦 / リ・ワカキ(中国、1996)
14. 李 也曾一 / リー・イェジェンイー(中国、1992)
15. グロリア・リズデ(クロアチア、1991)
16. 丸山達也(日本、1998)
17. セルゲイ・メルニチェンコ(ウクライナ、1991)
18. 森 凌我(日本、2001)
19. 西山 廉(日本、1995)
20. 大島宗久(日本、1990)
21. 富樫達也(日本、1989)
22. 吟茜(台湾、1989)

 
 
 
 

広報用作品

セルゲイ・メルニチェンコ(ウクライナ、1991)〈戦争の刺青〉シリーズより《ミコライウの爆撃されたアパートのプロジェクションとアントン #4》2023 ⒸSergey Melnitchenko

セルゲイ・メルニチェンコ(ウクライナ、1991)〈戦争の刺青〉シリーズより《ミコライウの爆撃されたアパートのプロジェクションとアントン #4》2023 ⒸSergey Melnitchenko

 
 

タハ・アフマド(インド、1994)《バドラの白鳥の歌》2016 ⒸTaha Ahmad

タハ・アフマド(インド、1994)《バドラの白鳥の歌》2016 ⒸTaha Ahmad

 
 

カスパー・ダールカル(フィンランド、1991)《サウナ(パパに捧ぐ)、母と息子》2022 ⒸKasper Dalkarl

カスパー・ダールカル(フィンランド、1991)《サウナ(パパに捧ぐ)、母と息子》2022 ⒸKasper Dalkarl

 
 

黄愛(中国、2001)《KABRALA》2024 ⒸHuang Ai

黄愛(中国、2001)《KABRALA》2024 ⒸHuang Ai

 
 

カイヤ&ブランク(トルコ、ドイツ、1990)《第二の自然 #89》2020 ⒸKaya & Blank

カイヤ&ブランク(トルコ、ドイツ、1990)《第二の自然 #89》2020 ⒸKaya & Blank

 
 

川口 翼(日本、1999)《Breathless》2022 ⒸTsubasa Kawaguchi

川口 翼(日本、1999)《Breathless》2022 ⒸTsubasa Kawaguchi

 
 

吟茜(台湾、1989)〈台湾 夢・遊〉より《魚屋》2024 ⒸUta Akane

吟茜(台湾、1989)〈台湾 夢・遊〉より《魚屋》2024 ⒸUta Akane

 
 

キャン綾菜(日本、1992)《裸足でなぞる》2021 ⒸAyana Kyan

キャン綾菜(日本、1992)《裸足でなぞる》2021 ⒸAyana Kyan

 
 

グロリア・リズデ(クロアチア、1991)《無題 #4、F20.5》2021 ⒸGlorija Lizde

グロリア・リズデ(クロアチア、1991)《無題 #4、F20.5》2021 ⒸGlorija Lizde

 
 

森 凌我(日本、2001)《獣の影 #4》2023 ⒸRyoga Mori

森 凌我(日本、2001)《獣の影 #4》2023 ⒸRyoga Mori

 
 

バスティアン・デシャン(フランス、1990)《遠くへ行きたい #07》2019 ⒸBastien Deschamps

バスティアン・デシャン(フランス、1990)《遠くへ行きたい #07》2019 ⒸBastien Deschamps

 
 

李 也曾一 / リー・イェジェンイー(中国、1992)《ゼイラマン》2023 ⒸLi Ye Zeng Yi

李 也曾一 / リー・イェジェンイー(中国、1992)《ゼイラマン》2023 ⒸLi Ye Zeng Yi

 
 
 
 

選考会後の選考委員による対談・レセプションは、当館ホームページ内「動画のページ」をご覧ください。https://www.kmopa.com/category/video/

’24ヤング・ポートフォリオ 選考委員 座談会(約52分) ’24ヤング・ポートフォリオ レセプション(約14分)  
 
 

展示内容の詳細は、当館ホームページ内「チラシと報道資料」をご覧ください。https://www.kmopa.com/category/press/

展覧会の詳細(PDFファイル) 展覧会チラシ(A4両面カラー・PDFファイル)

 
 
 
 

選考委員略歴

今道子
今 道子(日本、1955-)
神奈川県に生まれる。創形美術学校版画科卒業後、東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ・アカデミー)にて写真を学ぶ。市場に並ぶ魚や野菜などの食材、靴や帽子といった日常的なモノを組み合わせたオブジェを創り、自然光で撮影してプリントする独自の手法を用いる。その精緻な構成と詩的喚起力に富んだモノクロームの世界は初の写真集『EAT』(1987)以来一貫しており、第16回木村伊兵衛写真賞受賞をはじめ、国内外で高い評価を得ている。2022年神奈川県立近代美術館鎌倉別館にて「フィリアー今 道子」展が開催された。
コメント
「最初の頃は、(自身の)展覧会に目が行っていて、美術館に収蔵されることに、あまり関心がなかったのですが、作品が手元を離れ、評価され、きちんと管理され、保存されることは大事なことと感じています。若いころの作品はエネルギーや新鮮さがあって、今になってはできないことなのですから貴重です。」

 
 

百瀬俊哉
百瀬俊哉(日本、1968-)
東京都生まれ。大型カメラで捉える世界の都市像を”からっぽの風景”と呼び、都市の根底にひっそりと存在する息づかい、「裸の都市」を映像化し、新しい都市論を展開する。1994年、ニューヨークを撮影した〈SILENT CITY〉にて初個展。続いて〈AMERICAN SOUTHWEST〉(1996)、〈ハイパーリアル・トーキョー〉(1997)、〈グランド上海〉(1999)を次々と発表。2002年、第21回土門拳賞受賞。現在、九州産業大学芸術学部写真学科教授。第一回の1995年度YPをはじめ4回にわたり作品を収蔵している。
コメント
「約30年近く前にヤング・ポートフォリオへ応募をしたわけですが、その時は正直、美術館に収蔵されることの重さというのをここまで深くは考えていなかったと思います。年々時が経って、歳を重ねていくうちに、すごく自分の中で重く受け止めるようになって、そこにだいぶ救われてきたなという感じがしています。いろいろな公募がありますが、YPは特殊で、選考していて分かったのですが、かなり自分の世界というものを持ってぶつけてくる必要があるなと思いましたので、それに向けて作品制作を楽しんでもらいたいというのが最も強く感じた点です。」

 
 

瀬戸正人
瀬戸正人(タイ/日本、1953-)
タイ国ウドーンタニ市に生まれ、後に父の故郷、福島県に移り住む。東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ・アカデミー)在学中に森山大道氏に大きな影響を受ける。深瀬昌久氏の助手を務めたのち独立。1987年、自らの発表の場としてギャラリー「PLACE M」を開設し、現在も運営中。第21回木村伊兵衛写真賞受賞。2021年4月清里フォトアートミュージアム副館長に就任。

 
 

細江英公
細江英公(日本、1933-)
「薔薇刑」(1963)や「鎌鼬」(1968)など、特異な被写体との関係性から紡ぎ出された物語性の高い作品により戦後写真の転換期における中心的な存在となる。2003年、英国王立写真協会より創立150周年記念特別勲章を受章したほか、2010年、文化功労者。2017年、写真家として初めて生前に旭日重光章を受章した。1995年より当館初代館長。

 
 
 

関連印刷物&YPデータベース

YP2024ポスターパンフレット
各作家の作品数点、選考委員による対談や作品へのコメントを掲載。来館者アンケートにお答えいただいた方には無料で配布いたします。
 
YPデータベースには、過去30年にわたる世界の若手写真家による収蔵作品画像のほか、作家略歴、アーティスト・ステートメントを掲載しています。作家名、収蔵年、国籍などで検索することができます。様々な調査・研究の対象としてもご利用いただければ幸いです。▶︎▶︎▶︎ www.kmopa-yp.com

 
 
 

YP2024選考委員によるポートフォリオ・レヴュー参加者募集

開催日 11月4日(月・振休)
詳しくは当館WEBサイトへ

 
 
 

お問い合わせ

本展の詳細につきましては学芸員・山地裕子 yamaji@kmopa.com
掲載用画像データにつきましては、info@kmopa.com までご連絡ください。

 
Tel: 0551-48-5599
ホームページ  https://www.kmopa.com
YP募集専用ページ  https://www.kmopa.com/yp_entry/
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〒407-0301 山梨県北杜市高根町清里3545-1222 清里フォトアートミュージアム
Tel: 0551-48-5599(代表)  Fax: 0551-48-5445  Email: info@kmopa.com

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